婚約破棄イベント? 筋肉で殿下ごとねじ伏せますが何か?
「本日をもって、クラリス・フォン・ルクレティアとの婚約を破棄する!」
その言葉が、王立学院の講堂に高らかに響いた。拍手喝采、ヒロイン・ミレーユのうるんだ瞳、王子のドヤ顔。誰もが“悪役令嬢が泣いて土下座する名場面”を期待していた。
だがその中心にいたのは、泣くどころか腕立て伏せしてるクラリスだった。
「……96、97、98……ん? 今、何か言った?」
婚約破棄を告げた王子・アルベルトが唖然とする中、クラリスは悠々と立ち上がった。肩から背中にかけて盛り上がる筋肉。スカートの下から覗くのは、しっかりと鍛え上げられた太もも。
「ふふ……破棄? それ、筋トレになる?」
「な、なにを言ってるんだお前は! 恥を知れ!」
取り巻きの令嬢たちが嘲るように声を上げた。
「まぁまぁクラリス様、そんなに怒らずに〜? 筋肉なんてお育ちになって、女らしさの欠片もないですわよ?」
——パキィン。
空気が割れたような音が響く。
クラリスの背中の筋が爆発的に盛り上がり、謎のエフェクト「筋肉オーラ」が発動。講堂に圧が走る。
「貴様ら……筋肉を侮辱したな?」
衛兵たちが慌てて割って入る。
「クラリス様、落ち着いて——」
だが次の瞬間、クラリスは腰を落とし、片手で衛兵を掴み——
ジャーマンスープレックス。
ドォン! という鈍い音と共に、衛兵が講堂の床にめり込んだ。
「こ、これが“愛の力”……!?」
「違うわ。“上腕三頭筋”よ」
目を見開く王子。そして、自ら剣を抜いた。
「貴様ァ……王子に手を上げるとは、死罪だッ!」
クラリスは無言で、重そうな金色のダンベルを手に取った。片手でヒョイと持ち上げ——
「筋肉の差、見せてやるわ」
——秘技・ダンベル逆手投げ。
シュッと音を立てて飛んだダンベルが、王子の剣を折り、そのまま王子の王冠ごと後ろに吹き飛ばす。
「ひ、ひぃぃ……クラリス様、暴力はっ!」
「暴力? これは“鍛錬の成果”よ」
場が凍りつく中、扉がバァンと開く。
「……やめんか、クラリス」
入ってきたのは、女王陛下。銀髪の気品ある女性——しかし、その瞳は鋭く、どこか嬉しそうだった。
「クラリス・フォン・ルクレティア。貴様、面白い女だ。お前に、王国騎士団の団長を命ずる」
「騎士団長……?」
「ふさわしい筋肉を持っている。国の未来を、託したくなった」
——こうして、“悪役令嬢”クラリスは、“国を鍛え直す騎士団長”となったのである。
(続く)