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乙女ゲームの世界に転生。でも筋肉しか信用できない。

「ぐっ……うぉおおおおおっ!! 今日こそ、100キロだあああああ!!!」


結城まひる、24歳。独身、彼氏なし、友達ゼロ。趣味は筋トレ。特技も筋トレ。恋愛は一度もしたことがないが、ベンチプレス記録は自己ベスト98kgである。


そんな彼女が、ベンチプレス中にバーベルを支えきれず、そのまま胸に直撃——気づいたときには、知らない天井を見上げていた。


「……は? え、なにこれ、貴族っぽい天蓋ベッド? あたし死んだ? 筋トレ中に死ぬとか、漫画のギャグじゃん……」


混乱する中、メイドらしき少女が駆け寄ってきて言った。


「クラリスお嬢様! 目をお覚ましになられて……!」


——クラリス?


思い出す。乙女ゲーム『ローズ・オブ・エターナル』。ヒロインをいびり倒す悪役令嬢、クラリス・フォン・ルクレティア。ラストで王子に婚約破棄され、国外追放された末に馬車事故で死ぬ不遇キャラ。


「なんであたし、このキャラに……」


だが、気づいた。クラリスの体、肩幅が明らかに広い。そして鏡を見ると、腕がムキムキだった。腹筋も割れてる。 


「……なんで悪役令嬢なのに、上腕三頭筋がここまで育ってんの?」


記憶を遡ると、クラリスは気晴らしに始めた筋トレにハマり、社交界を放置してジム(物置小屋)に引きこもるようになったらしい。


「転生しても、筋肉しか信じられない性格とか……もう運命でしょこれ」


* * *


「クラリス・フォン・ルクレティア! 貴様との婚約は破棄する!!」


中庭で響く王子の声。ゲーム本編ならここでヒロインと正式に結ばれ、クラリスは公開処刑の如くフラれる。


——でも当のクラリスはその頃、庭の裏でスクワット1000回目に突入していた。


「あと200……クッ、追い込みが……足りない……ッ!」


王子は誰も来ないことに困惑していた。


一方、社交界ではヒロイン・リリィが他の貴族に絡まれていた。クラリスが嫉妬して彼女をいびるはずのシーンだが——


「クラリス様は……今日はどちらに?」


「筋トレルームから出てこられません」


「……は?」


* * *


そのとき。事件が起こった。


「この平民風情が! 王子に媚びを売るとはな!」


ヒロインに水をかけようとした男爵令息がいた。クラリスがいつも手を組む、典型的な悪徳貴族だ。


——が。


「貴様、何をしている」


ゴキィッ! と音を立てて、クラリスが現れた。両肩に浮き上がる僧帽筋、パンパンに張った大腿四頭筋。背中には“クラリス”と手縫いされた重り入りサンドバッグ。


男爵令息が振り返る。


「クラ、クラリス様!? 今、リリィとかいう平民に……」


ドゴォ!!!


言葉の最後まで言わせず、クラリスの右ストレートが炸裂。男爵令息は回転しながら吹き飛び、石壁にめり込んだ。


「……あ、あの」


涙目のリリィが見上げると、クラリスは筋肉隆々の腕でそっとハンカチを差し出した。


「泣くな。水はプロテインの邪魔になる」


「え、プロ……え?」


クラリスは空を見上げる。


「この世界、筋肉さえあれば……どうとでもなるじゃない」


(つづく)

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