ベランダ・ラベンダー
なろうラジオ大賞6 参加作品。
テーマは「ベランダ」
きっかけは僕の何気ない一言だった。
「なんか、いい匂いしない?」
「えっ!? もしかしてラベンダーの香りかな?」
中学の頃、僕のクラスに栞ちゃんが転校してきた。
彼女の横を通った時に、そんな言葉を漏らしてしまった。
まだクラスに馴染めない彼女の、最初の話し相手になったのが僕だった。
親が転勤族らしく、彼女は頻繁に転校しているという。今回で6回目らしい。
そんな彼女は花が好きで、様々な植物の世話をしていた。
中でもラベンダーが大のお気に入り。
出身地の名産だったらしく、引っ越しても故郷を忘れないようにと、育て続けているという。
プランターに植えられたそれは、今回も大切にベランダに置かれている。
いつしか僕たち二人は、栞ちゃんの社宅にお邪魔して、一緒に花を育てたり世話をする仲に。
最初の頃こそ、数えるくらいの花しかなかったベランダだが、今や二人で集めて育てた草花で埋め尽くされていた。
「なんか、ジャンクみたいだな」
「うん」
二人でいるその時間は楽しく、まるで自分たちの子どものように草木の世話をして過ごした。
ある日のこと、
僕は彼女から、大切なラベンダーを渡された。
「いいの?」
「うん、大事に育ててね」
その時は深く考えることもなく、快く受け取ってしまった。
「あのね、ラベンダーって、実は草じゃなくて木なんだよ」
「へぇ~ そうなんだ」
「木本植物っていうんだ。だからね、本当は地面に植えてあげるのが一番なんだよ」
「なるほど」
「お家の庭に植えてあげて」
その時、これがなにを意味しているのか分からなかった。
日曜日を挟んで週明けに登校してみると、栞ちゃんの席は無くなっていた。
「転校しました」
と、先生は淡々と述べる。
それは一週間前に急に決まったとのこと。
本人の意向で伏せていたこと。
別れを言うのが辛くて、黙って行ってしまったという。
クラスの大半はなんとも思っていなかったようだが、僕にはこの世の終わりが来たかのような絶望感に襲われた。
学校が終わり、急いで栞ちゃんの家まで向かうも、あのジャンクみたいなベランダはスッカリ片付けられていた。
その後、必死に移住先を探したが、結局どこに行ったか分からなかった。
月日は流れ、
僕も社会人となり生活も安定したタイミングで、一軒家を購入した。
都会からは離れた場所だが、庭付きの広い家だ。
ここには、あのラベンダーが根付いている。
そして隣には、栞ちゃんも。
もうどこにも行く必要はない。
ここが終の棲家として。
お読み頂き、ありがとうございます。
本年最後の投稿となります。
時間切れになってしまいました。
他にも書きたいものがあったのですが……
「浸かったら性転換するナイトプール」
「悪役令嬢からの卒業」
「カレンダーの女神はスローライフを望む」
「恐怖! 寝取られロシアンルーレット観覧車」
等、投稿できずに消えていきます……
また来年も、よろしくお願いします。
またどこかの作品でお会い出来るのを楽しみにしております。




