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半妖はうつし世の夢を見る  作者: 氷純
最終章 令和高天原参り

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第十九話 敗戦濃厚

 強行軍を強いてやってきた白菫率いる百鬼夜行に出雲大社の守りを任せ、折笠たちは西方を監視していた。

 土御門麟央からの情報によれば、下漬勢力には三体の神性持ち、もしかすると、四体の神性持ちがいるという。

 月ノ輪童子が京都の地酒を楽しみながらも剣呑な顔で西を睨んでいる。


「一対三、ないし四とはのう。闇討ち以外に勝ち目はないが、それを警戒して下漬も百鬼夜行を成したわけじゃな」


 折笠たちは味方を募るための百鬼夜行だった。下漬が起こした百鬼夜行はあくまでも対抗処置だと思っていたが、暗殺防止が目的だったのだろう。

 出雲大社を押さえたとはいえ、形勢は悪いままだ。

 大泥渡が折笠に質問する。


「もう神性を得てるなら、このまま高天原に参って願いを叶えればいいんじゃね? 下漬たちの願いを叶えないでくださいっていえば、今より悪い状況にはならないだろ?」

「それも考えたんだけど、不確定要素が多いんだ」


 大泥渡に提案されるまでもなく、黒蝶とこの話が済んでいた。

 下漬に神性持ちが三体。うち一つは参加権を持たない妖核のない下漬であっても、二体いれば、折笠の願いを打ち消す願いと自身の願いを叶える願いを達成できる。

 前例が見つからなかったため、先着の願いを打ち消す願いが叶えられるのかは分からない。

 だが、願いを叶えれば妖核を失い只人に戻る。つまり、その後の戦闘に参加できないというデメリットが大きい。


「それと、下漬勢の神性持ちから妖力を奪ってほしいという願いも叶えられるかが分からない」


 折笠の妖核一つで、三体の神性持ちから妖力を奪い取れるのか。釣り合いが取れない以上、別の何かを要求されるか、聞き届けられない可能性がある。

 黒蝶との話し合いで他にもいくつかの案が出たが、どの案も確証がない。

 たった一度の賭けで唯一の神性持ちを失うのはリスクが大きすぎる。

 結局は神頼み。最後の最後に頼る手段なのだ。


「ただ、土御門の想像通り、敗戦濃厚なんだよなぁ」


 折笠は呟く。

 それでも、折笠は勝ち筋を探していた。

 一対三でも四でも、負ける気はない。負けてはならない。仲間を守るのが唐笠お化けの本懐なのだから。

 負ければ守れないこの戦いで、勝ちを捨てることはできない。

 だが、どう考えても折笠一人で覆せる策は見当たらない。


「やっぱり、もう一名は神性持ちが欲しいな」

「対い蝶の郎党で大将の次に妖力が多いのは白菫と迷い蝶じゃな」


 月ノ輪童子がそれぞれに目を向ける。

 最高齢の白菫はもともとかなり妖力が多い。黒蝶は折笠と共に半妖の妖核をもらったことで一気に妖力が高まっている。

 白菫が首を横に振った。


「神性持ちになったとて、攻撃ができないのでは覆せません」

「神性持ちになれば神業なるモノが使えるのじゃろ?」

「どんな効果かも分かりません。能力も神性持ちの気質によるところがあるそうですから」


 白菫は自身が攻撃的な神業を使えるイメージが湧かないらしく、固辞する。

 自然と、視線は黒蝶に集まった。

 黒蝶は麦茶の入ったコップを置いて、折笠たちを見回す。


「そもそも、どうやってもう一人の神性持ちを作るの? 折笠君が神性を得たのも今日だよ? もう手持ちに妖核もないし、私でも白菫でも、神性を得るのは難しいと思う」

「下漬の百鬼夜行に式が含まれてる。開戦と同時に式を優先的に狙って妖核を強奪する」

「向こうも同じことを考えてない?」


 式の妖核が奪われるくらいなら、開戦前に処理するかそもそも式を出してこない。黒蝶はそう言いたいらしい。


「多分、下漬は式が狙われると読んだうえで出してくると思う。というより、いまは引っ込められないんだよ」

「どういうこと?」

「下漬が一番警戒しているのは俺たちじゃない。狙撃銃とかで直接殺されることだよ。だから、百鬼夜行を盾にして進むしかない」


 周囲を固める調伏された妖怪には意思があり、命令にいやいや従っている状態だ。危険を察知していても命令に反さない限りはあえて無視を貫くだろう。

 だから、下漬は妖怪や式を盾にして進んでいる。

 折笠の予想に黒蝶が納得したその時、部屋の外から声が掛けられた。


「土御門です。よろしいですか?」

「どうぞ」


 狸妖怪の豆介が襖を開けると、そこには土御門麟央と護衛らしい老人が佇んでいた。

 強力な妖怪と半妖が集う部屋にたじろいだ土御門だったが、すぐに気を取り直して部屋に入る。


「内密に願います。土御門本家と分家のいくつかから家宝の妖核を取り寄せました。迷い蝶の半妖に献上します」

「家宝を?」


 出雲に集まっている陰陽師から妖核をかなり徴収したが、確かに土御門家の物はなかった。てっきり、陰陽師会のトップに君臨する力を温存しているのだと思って気にしないでいた折笠は、土御門に視線で問う。

 なぜ今になってこれを出してきたのか。

 土御門は視線に緊張しつつ、答える。


「まず、土御門家は狐妖怪の血筋です。生まれつき妖力が多く式に頼らずとも十分以上に戦えます。これらの妖核はいわば保険のようなもので、失っても家勢には響きません」

「なるほどね。他の陰陽師よりも妖力が多いとは思ってたけど」


 土御門の妖力は大泥渡と同等以上だ。五行家の一角だけはある。

 黒蝶が妖核を手に取って眺める。


「なんでこれを私に?」

「陰陽術で占った結果、これがもっとも日本のためになると結果が出ました」


 どこまで信用できる占いなのか分からないが、罠ではないだろう。

 念のために塵塚怪王や大泥渡に陰陽術で呪詛などがかかっていないか検査をしてもらって、黒蝶は妖核を砕いた。

 急速に妖力が高まった黒蝶だったが、折笠と比べるとまだ弱い。


「……祝詞が浮かばない。足らないね」


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