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半妖はうつし世の夢を見る  作者: 氷純
最終章 令和高天原参り

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第十六話 急転直下

 出雲で内乱発生。

 その報をSNSで受けて、折笠たちは百鬼夜行の行進速度を上げた。

 金羽矢家が日本陰陽師会を裏切り、水之江家の家宝大蛟の妖核を奪って逃走、下漬と合流したという。

 折笠たちは狸妖怪が変化した宝船で出雲に急行しながら緊急の会議を開いていた。


「出雲の状況は?」

「鞍馬山の天狗からの連絡だと、大混乱しているみたい。水之江家の当主が連続で死亡、指揮をとれる者がいないって話」


 鞍馬山の天狗から情報を聞いた現地の半妖がSNSで連絡してくれたところによれば、出雲に残っている水之江派の陰陽師は混乱しつつも防備を固めているとのこと。

 現在、五行家の一つ土御門家の当主が指揮権を有しているものの、当主、麟央は十三歳。実戦経験もないためまともな指揮が取れるはずもない。


「撤退する様子はなしか」


 指揮系統が混乱している最中にあって、水之江派の陰陽師は出雲に立て籠もるつもりらしい。それだけ、折笠や下漬に高天原参りを成功させたくないのだろう。

 神性持ちの大蛟すら奪われた今の水之江派が下漬を相手にできるとは思えない。折笠たちが急いでいるのも、下漬に出雲を押さえられないようにするためだ。


 金羽矢家が下漬に寝返ったのなら、下漬自身に加え雷獣と大蛟、三名の神性持ちを擁している。いまだに祝詞も浮かばない折笠たちが正面から戦って勝てるのか甚だ疑問だ。

 大泥渡がスマホの地図アプリを見ながら予想する。


「多分、大蛟の制御にもそれなりに時間がかかるはずだぜ。二日くらいか」

「二日か。なら、どうにか出雲に先回りできそうだな」


 折笠は墨衛門と白狩に目を向ける。


「柏巴はこのまま俺たちと一緒に出雲へ先行しよう」


 水之江派の陰陽師が撤退しないのはむしろありがたい。いまの出雲には統制の取れない集団が大量の妖核を抱えて居座っているのだ。できる限り早く打倒し、妖核を奪い取る。

 そうすれば、折笠も神性を得られるはずだ。


「もう一押しって感覚があるんだ。一緒に来てくれ」

「かまわねぇが、この百鬼夜行の指揮はどうする? 大将の唐傘が先陣を切るとなると、この百鬼夜行は強行軍で出雲に向かっちまう。疲れ切った集団なんざ、下漬一派に蹂躙されかねん」

「そこは白狩、白菫に任せる」


 古いケサランパサラン、白菫は江戸高天原参りにも参加していて経験豊富だ。加えて、求心力があり、狙われやすい件の半妖などとも打ち解けている。集団の指揮は執れるだろう。

 折笠に名前を出された白菫は静かに頷いた。


「任されましょう。この程度の規模の集団ならば、私の能力も及びますので」


 ケサランパサランの能力は他者に幸運を与えるという曖昧なものだ。だが、五百を超える妖怪の集団全てに幸運が付与されれば、百鬼夜行の足を止める障害など存在しないだろう。未来予知など半妖たちの能力も適宜使っていけば、疲労の蓄積も最小限に出雲に到着できる。


「万が一に備えて月ノ輪童子や塵塚怪王を補佐につけることもできるけど」

「その二名は前線に出てこそ真価を発揮します。そもそも、補佐などいりませんよ。白狩たちもおりますので」

「わるいな。正直、月ノ輪童子と塵塚怪王には付いてきてもらいたかったんだ」


 置いて行かれそうになって切なそうな顔をしている塵塚怪王をフォローする折笠に、白菫はそっと手を差し出した。


「カサ様、ツキ様、私の分け身をお持ちください」


 白い綿毛の塊のようなケサランパサランの分け身が白菫の手に乗っている。折笠は礼を言って分け身を受け取ってポケットに入れた。

 黒蝶も分け身を受け取って自分の手の平に乗せ、感触を楽しむように指でつつく。


「フワフワだー。可愛い」


 やっぱりペットとして人気が出そうだよな、と折笠も思う。

 黒蝶の反応に白菫は穏やかな笑みを浮かべ、頭を下げた。


「ご武運を」


 ケサランパサランに武運を祈られるのはご利益がありそうだ。


「それじゃあ、後のことを頼む」


 白菫たちを宝船から降ろして百鬼夜行の指揮を任せ、折笠は甲板上の面々を見回す。

 黒蝶、月ノ輪童子、塵塚怪王、大泥渡、サトリといった対い蝶の郎党。

 そして、墨衛門、大煙管、豆介など柏巴の郎党。

 戦力は四十名まで減ったが、速度を重視するならこれ以上は乗せられない。それでも、負ける気はしない。


「時間との勝負だ。大まかな作戦は道中に決めるけど、主に奇襲作戦になる。船の高度を上げてくれ」


 加速しながら高度を上げる宝船から地上を見下ろす。

 五百名の妖怪、半妖たちが宝船に手を振っていた。急に集めて置いてけぼりにしてしまったのに、不満そうな者は誰もいない。

 誰もが、必ず出雲での決戦に間に合わせるつもりだからだ。

 折笠は手を振り返し、船の帆を見上げた。

 いつの間にか、宝の一字が変更され、向かい合う蝶の紋が大きく描かれていた。


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