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半妖はうつし世の夢を見る  作者: 氷純
最終章 令和高天原参り

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第九話  半妖の処遇

 負傷者を乗せた狸妖怪の宝船で折笠たちは福島に引き返した。


「八尾比丘尼、祟り神、雷獣の神性持ち……差をつけられたな」


 八尾比丘尼はあくまでも人間だ。半妖と違って妖核を持たないため、高天原参りの参加権があるか分からない。

 下漬自身も雷獣の神性持ちを手に入れようと行動しているからには、高天原に行くことはできないと考えているのだろう。あるいは雷獣を保険として確保したのか。

 どちらにせよ、下漬自身の妖力は並ではない。雷獣の調伏に意識を割いていたから四阿山の山頂で直接の戦闘にならなかったが、もしも戦っていたらどうなったか。


 折笠は甲板で働く狸妖怪たちを見る。

 柏巴などとの同盟により戦力は増えた。だが、圧倒的な個の力に対抗できる戦力にはならないかもしれない。

 古い妖怪だった雷獣でさえ、下漬に敵わなかった。


「参ったな……」


 令和の高天原参りは終盤戦に入った。

 遠からず、神性を得た雷獣を伴って下漬が出雲に向かう。

 ここからは神性持ちか準神性持ちによる戦い。水之江家の大蛟などが出てくる規模だ。

 いまだ、折笠はあの大蛟に勝てるとは思えない。


 下漬より先に出雲へ向かい、現地を固める陰陽師を撃破して式に使う妖核を奪い取るべきか。それをすると下漬との連戦になる可能性が高いのが問題になる。陰陽師との直接対決は味方への被害も馬鹿にならない。

 悩んでいると、後ろから声を掛けられた。


「唐傘の大将、月ノ輪童子がお呼びです」


 振り返ると、炭風が人の形で立っていた。心配そうに見てくる炭風に折笠は肩をすくめて余裕ぶった笑みを浮かべて見せる。


「帰ったら雷獣の配下をもてなすだろ? 料理は何がいいと思う?」

「あぁ、それにお悩みで。山住みの妖怪が多いようですから海鮮が喜ばれるかと」

「洋食にしておく? アクアパッツァとか」

「いいですね。雷獣を失って気落ちしているでしょうから、真新しいものを出して意識を向けさせましょう」

「決まりだな。墨衛門に話しておこう」


 うまく話を逸らして、折笠は月ノ輪童子の下へ向かう。

 一等客室に当たる奥の部屋。その部屋には迷い家の入口が安置されている。

 折笠は客室を見回して護衛の白狩に一声かけた後、迷い家に入った。


 先ほどまでの空飛ぶ宝船の中とは異なり、霊道に入る。しっかりとした地面の感触を足の裏に感じながら、折笠は森を見る。

 自由になった半妖の子供たちがどこか無気力に森の中を歩いている。目的もなく、遊ぶわけでもなく、服を汚さないようにだけ注意しながらただ歩いている。

 部屋の隅で縮こまっているよりは健全だが、背景事情を考えると重い景色だ。


 家の中では月ノ輪童子たちが車座になって囲炉裏を囲んでいた。その中に、イジコと面霊気の半妖の姿もある。気まずそうに肩を寄せ合う二人の前にお茶とチョコレートが出されているが、手を付けていない。

 いち早く折笠に気付いた塵塚怪王が体を向けて報告する。


「主様、半妖は全員が自由になりました」

「ありがとう」


 身体的には自由になったが、精神的な束縛はまだ残っている。迷い家を出れば下漬の下へ帰ってしまう半妖もいるだろう。

 折笠は座布団に座り、仲間を見回した。


「それで、他に何か報告が?」


 この場に墨衛門や白狩は呼んでいない。対い蝶の郎党のメンバーだけだ。内々での報告だろう。

 サトリが大泥渡の肩の上でせんべいを齧りながら、イジコと面霊気の半妖に顎をしゃくった。


「話があるってのはそっちの二人だ」


 話を促されて、イジコが緊張の面持ちで口を開く。


「あの、ぼ、僕らは、どうなる? なりますか?」

「ひとまず福島県にある俺たちの拠点に連れて行く。帰る家がある子は送り届けるつもりだけど、今回の高天原参りが終わるか下漬を倒すまでは俺たちで保護するよ」


 できるだけ安心させられるように、折笠はゆっくりと言い聞かせる。

 おそらく、半妖の子供たちに帰る家はない。何らかの形で家族から下漬に売り渡されたのだろう。下手をすると戸籍すらない。

 妖怪たちと協力して数年面倒を見るとしても義務教育その他、考えることが山ほどある。高天原参りが終わるまでは下手に行政を介入させることもできない。

 イジコが膝の上に置いた両手を固く握り、頭を下げた。


「僕らの妖核をあげます。高天原参りに参加してるなら、ほしいですよね?」


 妖核を渡す代わりにちゃんと保護してほしいというところだろう。不器用な交渉だ。妖核を手放して只人になれば身を守る手段もなくなり、人道的な問題を除けば折笠たちが保護する意味もなくなる。

 震える手で差し出された妖核を受け取らず、折笠は外を見た。いつの間にか、半妖たちがこちらを窺っている。


「俺は君たちのことを戦力とは思っていないし、利用するつもりもない。君たちを保護するのは、それがこの郎党の目的で、高天原参りで願うことの一つだからだよ」


 妖怪と半妖が安全に暮らす場所を作り出す。それが対い蝶の郎党の願いだ。

 ここで折笠が半妖を切り捨てれば、誰もついてこない。


「だけど、君たちに一切の罪がないとも言わない」


 はっきりと宣言する折笠に、半妖たちが震える。

 下漬に無理やり戦わされていた子供たちの罪をあげつらうのは良心が痛むが、それでも自覚させなくてはいけない。

 これからこの子供たちは墨衛門や白狩たち、仲間を殺された妖怪と否応なく関わることになる。罪を自覚せずに無神経に関われば、逆鱗に触れる。

 比喩ではなく、死を招く事態になる。


「そんなに怖がらなくていいよ。君たちが罪を自覚しているのは態度を見れば分かるから。ただ忘れないでほしいだけだ。みんなで相談して、どうするかを決めなさい。俺も相談に乗るから」


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― 新着の感想 ―
子供たちの行き場がないのは悲しいですね。 黒蝶みたいに家族の理解があった家は、家が神主だったことで、妖怪の存在を認知してたことも関係してそうですね。 一方、半妖になるのに生まれつき以外に、妖核を得るこ…
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