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半妖はうつし世の夢を見る  作者: 氷純
第三章 うつし世の夢

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第九話  一休み、ともいかず

 結界を出た折笠と黒蝶は月ノ輪童子たちと合流し、石の箱を見せた。


「ケサランパサランか。人からも妖怪からも狙われる故、探し出すのは一苦労じゃな」


 持ち主に幸運をもたらすとされる妖怪だけあって、手元に置きたがるものが多い。

 ひとまず地元の妖怪である白狩から話を聞きたいところだ。

 まだ近くにいるかもしれないからと、折笠たちは急いで霊道を出て吉野平の不動滝に戻った。


「手分けして探しましょうか?」


 塵塚怪王の提案に折笠は少し考えてから答える。


「まとまって動こう。白狩を襲った陰陽師のせいで大泥渡君が妖怪から目を付けられるかもしれない」


 大泥渡だけでなく、調伏されている可能性を考える妖怪は半妖の折笠達にも懐疑的な視線を向けるだろう。

 月ノ輪童子や塵塚怪王を窓口にするしかない以上、まとまって行動する方が安全だ。

 滝を後にして歩き出し、道に出る。当てもないので適当に歩き出しつつ妖怪の気配を探る。


 夜を待てば妖怪たちも活発になるだろうが、少しでも早くケサランパサランと話がしたい。焦っても仕方がないと分かっていても、様々な謎の答えが知りたくて仕方がない。


「ちょっとどこかで甘い物でも食べる?」

「……そうだな。ちょっと落ち着こう」


 黒蝶の気遣いに、折笠は深呼吸して答えた。

 黒蝶もいろいろと気になっているはずだ。そんな彼女から見ても折笠は焦っているらしい。


「僕はクリームソーダとかいうのを食べてぇんだけど」

「ここぞとばかりに希望を言うじゃん。喫茶店とかあるかな。見た感じ、民家と畑と森しかないけど」

「スマホで確認するね」


 折笠が周囲を見回して看板を探し、黒蝶がスマホで店舗を調べ、大泥渡は所在なく佇む。

 大泥渡はスマホも持っていないのだ。

 黒蝶が片手で操作するスマホに興味津々な大泥渡はちらちらと彼女の手元を見る。


「スマホってやっぱり便利か?」

「簡単な調べ物もできるし、便利だよー。無くても生きていけるって思ってた時代が私にもありました」

「ほとぼりが冷めたら買うか」

「芳久、エロサイトを見るときは呼べよ?」

「見ねぇよ!」


 肩に乗ったサトリに茶化されて、大泥渡は反発する。

 下卑た笑い声を挙げながら大泥渡の肩から飛び降りたサトリがそのままの勢いで折笠の背中を上って頭に到達する。


「唐傘ァ、芳久にお勧めのエロサイトを教えてくれよ。なーに、声に出す必要はねェぜ? 心を読んでやっからよ……マジか、調べたことすらねぇのか。おいおい、それでも雄かァ!?」


 驚愕した様子のサトリが折笠の頭を叩く。叩けば何か出てくるというものでもない。


「おすすめバイト情報サイトなんていらねェよ! 闇バイトの見分け方だァ!? 逆に気になるわ、くそがっ!」

「折笠君、その年で枯れてるのはどうかと思うよ?」


 黒蝶に心配されつつ、折笠は道の先に見えた『氷』の一字が書かれた幟を指さす。


「潤すぜー。喉を、心を!」


 たったったーと黒蝶が走っていく。それを塵塚怪王が慌てて追いかけて行った。遅れて大泥渡とサトリが走り出す。

 歩いていく折笠の横に月ノ輪童子が並んで肘でつついてきた。


「迷い蝶を見慣れて思考を乱されんようになったんじゃな?」

「何の話?」

「時々、迷い蝶の胸に目が行ってること、本人も気付いていて先の話を誤魔化したんじゃ。奢った方がいいぞ?」

「まじか……」


 やはりバレていたかと、折笠は反省する。

 月ノ輪童子は大笑いしながら折笠の背中を叩いた。


「年頃じゃな!」


 茶化すように言って、月ノ輪童子は一足先に店へ行こうと足を早めた。

 直後、月ノ輪童子が刀の柄に手をかける。遅れて、駆け寄ってくる妖怪の気配に気付いた折笠も唐傘を右手に作り出した。

 雑木林へ揃って警戒の目を向ける。


「――待て、敵ではない」


 雑木林の中に一人の男が立ち上がった。青い着物姿の金色に輝く髪と瞳、一目で人間ではないと分かる妖力。


「野狐の枚衛門という者だ。天狐の白狩の命を受け、あなた方に助力を願いに参った」


 敵意がないと示すように両手を挙げて、枚衛門はゆっくりと雑木林から出てくる。

 月ノ輪童子が柄から手を離した。


「ふむ。唐傘の、どうする?」

「ひとまず話を聞くけど、仲間がいま休憩中なんだ」


 道の先の店を示して言うと、枚衛門は心配そうに付近に目を向ける。


「急な訪問に急な願いだ。待つのが筋と分かっているが、急いで欲しい」

「緊急事態か」


 枚衛門が深く頷く。


「天狐の幾名かと連絡が取れず、陰陽師の蓑氏家の手練れが付近に潜んでいるとの情報が入った。あなた方も危ないと思う」


 蓑氏家は大泥渡から聞いた実力のある陰陽師家の一つだ。新家の中でも実力派で妖怪退治に積極的な家柄でもある。

 白狩と共に尋問を行った陰陽師からは出てこなかった名前だ。応援が来たのかもしれない。

 なにより、この地にはケサランパサランがいる。

 折笠はスマホを取り出して店の中の黒蝶に電話する。


「――どうしたの、折笠君?」

「白狩から助力を請われた。蓑氏家の手練れが近くにいるらしい。食べ終えたらすぐに外に出て」

「分かった。頭がきーんってなりそうだけど、頑張る」


 かき氷を食べていたらしい。


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