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「今日も行くのか?」
「うん。お留守番よろしく」
あれから数ヶ月。私と彼は良好な関係を築けていると思う。
「行ってくるね」
家事が下手と言われていた人外さん改めルカは意外と家事が出来た。経験値が少なかっただけで、何回か教えて実践したらそれはもう私より家事が得意になった。
それか私の生活力が無さ過ぎて、ルカが頑張った結果かもしれないけど。
「やっぱり私も行く」
「大丈夫だって〜」
心配そうに眉尻を下げるルカにでれっとする。初期じゃ考えられないくらい心を開いてくれてる。自分の好みの男が気遣う姿にニヤニヤが止まらん。
「私がもっと強かったらよかったのだが」
最初ルカは私がS級冒険者ということを知らなかったけど、今は私がめちゃくちゃ強いと言う事を理解している。
というのも、はじめのうちは剣士として仕事をしようとして一緒に魔物討伐をしていた。
私は別に家に居てくれればそれだけでよかったのでいいと言ったのだが、矜持が高い彼は自分の仕事はちゃんとやると言って着いてきたのだ。
だが悲しいかな剣の才能は無く魔力もゼロの為、強くはなかった。けれどいつか私が死んだ時に困らない程度には、鍛えていた方がこの世界で生きていくには良いと思った為、私は特に何も言わなかった。
だが私と彼はレベル差があり過ぎた。私のレベルだと彼が付いて来れない。逆に彼のレベルに合わせた仕事だと2人を養うだけの稼ぎには少ないし、他の新人冒険者の仕事をS級の私が奪うのは御法度だ。
それでも彼はいざという時は剣闘奴隷の自分を盾にすればいいとかアホなこと言って、私の仕事に無理矢理着いて来てたのだが、一度それなりの失敗をしてからパタリと来なくなった。
「私が行くと逆に足手纏いになるからな」
けれど心配はするらしく、毎回ごねる。でもきっと私が一緒に行こうと言ったら来てくれる。だがそれは望んでいないから言わない。
それよりもタイプの男が自分を心配する様を見るのがたまらん。めっちゃかわいいやんけ。
「ありがとう。気を付けるね。あ、帰ったらルカのトマトスープが飲みたいな」
「分かった。作っておく」
「やったー! 楽しみ!」
「だから無事に帰って来てくれ」
「らーじゃー」
ちゅ、とリップ音を立ててほっぺにキスを貰う。独り身でこちらの文化に明るく無い私は知らなかったのだが、これがこの世界での安全を祈るお祈りらしい。
効果があるかは知らないが、役得なので毎回有り難く貰っている。
「じゃあ行ってくるね! 戸締りしっかりして、変質者に気をつけるんだよ!」
「私にそのような心配は不用だ」
「いやルカは世界一綺麗なんだから過剰なくらい気を付けるのが丁度いいんだよ!」
「…何度も言っているが、それは貴女だけの価値観だぞ」
「えー。ルカはこんなに魅力的なのに?」
「分かった。分かったから貴女の言う通りにしよう。だからそれ以上はやめてくれ」
そう言って両手で顔を隠してしまったルカがかわいい。隠しているが耳が真っ赤なのが丸見えだ。言ったら対策されるので絶対言わないけど。
彼はプライドが高い割に、褒め言葉に弱いらしい。涼しげな美貌を赤く染められるのは私だけの特権だ。
※※※
私とルカに男女の関係は無い。
私は正直好きだけど、ルカは分からない。愛玩奴隷になる事をひたすらに嫌がっていたから、私からそれを提案することは出来ない。
恋人という形を私は望んではいるが、ルカから見たら主人である私からそんな提案されたら、きっと愛玩奴隷になれと言われているのと同じ事だと感じるだろう。
けれど同時に私から解放する事も出来ない。ルカは私と暮らしている中で家事を覚えた。今なら他の主人の下でも家事奴隷として生きていける。
でも私は彼を手放す気は無い。この好意は好きだから解放しなきゃ、という綺麗な感情では無いのだ。
手に入らないなら誰のものにもならないで欲しい。
一生私だけのものであってほしい。
「ヤンデレかーい」
真っ赤になったルカを思い出す。こんな感情見せられないなと苦笑いしながら、目の前の魔物に向き合った。
ここまでが短編の内容です。連載版は次からスタート。