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私の奴隷はとても可愛い。〜XXXXX〜  作者: せろり
忍び寄る影 〜心に灯る嫉妬〜

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2-6


「イクス様とミサキ様をお連れしました」

「どうぞ」


 入室すると、部屋は小綺麗に整理された執務室。来客用ではなく、ギルドマスターの部屋だろう。王都のギルドマスターの小汚い部屋を思い出して比べていると、奥から背の高い女性が現れた。


「はじめまして。この町のギルドマスターです。窓口からS級のお二人がいらしたと連絡を受け、急遽お呼びしました。迎える準備ができておらず申し訳ありません」

「いえいえ、突然来たのでお気になさらず」

「…………」


 どこかの髭面のギルドマスターとは違い、丁寧な物腰に好感を抱く。ソファーを勧められ視線を向ければ、イクスはすでに座ってテーブルのお菓子をモリモリ食べていた。あれだけ食べたのにまだ入るのか。さすがである。


「……では、早速ですが本題に入らせていただきます」


 社会人経験があって多少空気が読める私とは違い、マイペースなイクスの姿にギルドマスターは一瞬固まったが、すぐ咳払いして切り替えた。切り替えの早い上司、最高です。まあ冒険者は変人多いから慣れてるのかも。


「お二人をお呼びしたのは、窓口に載せていない討伐をお願いしたいからです」

「載ってない依頼?」

「たまーにお偉いさんや後ろ暗い組織から、表に出せない依頼が来ることがあるんだよ。法外な見返りとかと引き換えにね」


 ルカが首を傾げたので補足する。ちなみにこういうのは指名依頼に近いため断ることも可能だ。


「私パス」

「もぐもぐ……俺も……もぐもぐ」


 S級である私たちは、こういう依頼は基本受けない。一度受けるとコネを作られたり、後々も頼れると思われて面倒事が増えたりするからだ。ギルドは本来、お偉いさんの顔色を窺わなくていいのが大前提だし、金持ちは大体私兵を持っている。自分たちでやればいいじゃん、というのが私の感想だ。

 それに世界は魔物の脅威に侵されている。同じ労力を使うなら、金持ちの趣味に付き合うより人々の生活が豊かになる依頼を選びたい。もちろん自分が強いとはいえ命を懸けることには変わらないので無償でなんてやらないけど。


「そこを何とか」

「嫌」

「話だけでも」

「無理」

「貴方たちじゃないと出来ないんです!」

「面倒」


「……ごくん。……話だけ、聞くか?」

「えー。じゃあイクスだけ聞きなよ」

「……聞くだけなら問題無い。嫌なら断ればいい」


 珍しく口を挟んだイクスに振り返ると、大事そうにお菓子の包みを抱えていた。こーの食いしん坊め。買収されたな? まあイクスのスキルはバレてないけど、大食いってことは有名な話だけども。そして不思議な事に私の前に出されていた茶菓子も無くなっているのは何故かな? イクス君。


「……はぁ、まあいいよ。受けるかどうかは分かりませんけど、話だけ聞きます」

「あ、ありがとうございます!」


 立ち上がりかけた腰を下ろし、立っていたルカの手を引いて横に座らせる。イクスは一人掛けソファーでお菓子のお代わりを要求していた。あ、すみません、私たちの分もください。


「こちらになります」

「……あれ? これって」

「はい、今回の討伐依頼は未承認のものです」


 ギルドマスターがそっと差し出した紙には、依頼書にあるはずの“承認印”がどこにもなかった。


「未承認?」

「依頼内容にはギルドが定める基準があるんだけど……今回は、その基準を満たせなかった依頼だね。今回はえーっと……難易度に対して、褒賞金が全然足りなかったんだね。こういう未承認依頼って割に合わないから、普通は誰も受けないんだよ。ただ、ギルドマスターが特別に許せば掲示はできるけどね」


 ルカが小さく首を傾げたので、簡単に説明を補足する。

 依頼の難易度と報酬が釣り合ってない――なんてこと、実は冒険者界隈では珍しくない。


 ギルドに頼むということは“プロに頼む”ということで、その分のお金はどうしても必要になる。だから依頼人は基本、自分たちで何とかできる範囲は自力でやろうとする。それでも無理なら公共機関へ、そこでも無理なら最後にギルドへ……という流れだ。


「これ、魔物討伐じゃん。だったらギルドじゃなくて、この国の騎士団とか予算で対処できるんじゃない? この街って規模大きいし、資産も潤沢でしょ。なんでギルドに?」

「はぁ……実は、この依頼者はこの国の者ではないのです」

「?」

「場所も国境外のため、騎士団には要請できないのですよ」

「国外からの依頼ってことね」

「……ここ以外、周辺にギルドは無いからな」


 なるほど。依頼元が外国ならこの街の騎士団が頼れないのも納得だ。この辺りはグラッツィア以外大きな町もない。

 ――確か隣国って、田舎に対してやけに冷たい国だったはず。

 そりゃダメ元でも、未承認依頼を出しに来るか。


「……内容は?」

「受けてくれるんですか?!」

「内容聞いてから決める」

「あ、そ、そうですよね。私ったらつい……」


 興奮するギルドマスターには悪いが、命を懸ける仕事は綺麗事だけではやっていけない。魔力チートがあってS級と持て囃されてはいるが、私自身は無敵ではないのだ。不注意で怪我をすることだってあるし、罠に嵌ればこの前みたいに奴隷寸前まで追い込まれることだってある。死なない保証なんてどこにもないのだ。


「場所は、モウスウッド村。小さな畑と木材で生計を立てている集落です。周囲は森林に囲まれていて、他に助けが見込めない場所で……」

「ふむふむ」

「……実は、かなり、切羽詰まっている状況でして……」


 そこで急に口ごもったギルドマスターに、違和感が胸に引っかかった。

 本来なら依頼の手数料の何割かはギルドに入るのに――こんな“褒賞金スカスカの依頼”を、よりによってコストの高いS級冒険者二人に勧めるなんておかしい。


「……詳しく教えて」

「はい、実は……」


 イクスと軽く目を交わしてから、私は詳細を聞き出した。そして語られた内容は、想像以上に切迫していた。放置すれば間違いなく手遅れになる。

 ……仕方ない、急ぎ向かうか。幸い買い物は全部済ませている。この大きな港町でゆっくり一泊、という計画は流れたけれど、人命には代えられない。


「場所はこちらです」


 地図に示された村は、この町からそう遠くはない。だが歩けば三日は掛かる。周囲は山に囲まれ、道は細く険しい。援軍を求めるにもアクセスが悪すぎる。近隣の村も小規模で、たとえ事情を知っても自分たちの防衛を捨ててまで助けてはくれないだろう。武力面でも期待は薄い。

 ――だからダメ元で、わざわざ未承認依頼を抱えてここまで来たのか。


「……敵は?」

「! え、えーとですね……実は、Sランクの可能性が高く……」

「Sランクか……イクスがいるなら別に問題ないね」

「それが……一体じゃなくて、複数で群れを成してるみたいなんですよね」

「Sランクの群れだと……?!」


 ルカが勢いよく立ち上がり、隣に座っていた私も思わず目を丸くする。


 ……が、イクスが追加されたお菓子をもぐもぐしていたので、ルカと自分のお菓子をサッと退避させた。いやいや、私だってお菓子は食べたい。来客用のおやつなんて絶対いいやつに決まってるじゃないか……!





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