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私の奴隷はとても可愛い。〜XXXXX〜  作者: せろり
1章 ガール ミーツ ボーイ 〜そうして僕は彼女に出会った〜
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 結果的に今、私は家事奴隷として働いているが、これもミサキが命令したわけではない。

 ある日大怪我をした私は腕の良い医者に診せられた後、質の良いベッドに寝かされた。療養という名目で何日も彼女の帰りを待つ日々が続く。何もしないのは性に合わず悶々としていたが、体が動かなかったので仕方がない。そして数日経った頃、私は違う意味で耐え切れなくなってきていた。


 まず、部屋が汚い。自動掃除機や空気清浄機が稼働しているので不潔とまでは言わないが、とにかく物が乱雑に置かれている。何故、テーブルの上が物置になっているのだろうか。


 そして食に関しても苦言を言いたくなった。ミサキの作った料理は……正直、不味い。基本出来合いの物を外で買ってきてくれるのだが、夜行性の魔物退治をした日は当然帰りが遅くなる。その時間には屋台や食事処は全て閉まっているので買い物は出来ない。そんな時はミサキが家にある食材で作ってくれたのだが……彼女の料理は飲み下すのに根気が必要だった。ミサキ自身もあまり美味しくないと言いながらも平然と食べる様は、流石高ランク冒険者と感嘆したほどだ。

 聞けば火が通っていて、栄養が取れれば何でもいいとのこと。高価な魔石や多くの魔法製品に囲まれる生活を送れる程の金があるというのに、食べている物はヘドロとか……。少し彼女を可哀想だと内心憐れんでしまったことは秘密だ。


 それらに加えて、ある時はベッドではなくソファや床で寝落ちした様子や、とても妙齢の女性とは思えない身だしなみのまま出掛けていく様に、とうとう自分の方が先に限界を迎えた。


 ――勿体なさすきる……!

 少し手を掛けるだけでもっと快適な暮らしができるというのに……! 磨けばより輝けるというのに……!


 少し前まで隣で戦う美しい姿を見ていたからこそ、余計そう感じてしまう。宝石が自ら泥水に突っ込んでいく様に、もはや自分の方が耐えられなくなっていた。


「家事をしてもいいか」

「? いいけど、出来るの?」

「……経験は無いが、努力する」

「? 別にいいよー。好きにしてー」


 却下されるかもしれないと思いながら申し出たら、随分あっさりと許可が出た。

 そうして家の仕事をこなしていくうちに要領を得て、今では立派に家を管理するほどの腕前になっている。




「……全く。何を考えているのやら」


 数か月前の生活を思い出すと溜め息が出るが、それに反して頬が緩むのが自分でも分かった。

 奴隷の自分をまるで対等かのように扱う変わった主人。先程も寒いかと言って毛布を自分に持ってこようとしていた。他者に大切にされる環境が初めてで、その度に胸の奥がくすぐったい気持ちになるが、同時に心地よさを感じている自分がいる。


「うぅーん……」

「!」


 思い出に浸っていればミサキがうなり声をあげた。そちらに目を向ければ、彼女が寝返りを打って左を向いたところだった。その反動で髪の毛が彼女の顔に掛かってしまっている。


「涎がつくぞ」


 寝苦しいだろうと思い、髪を右耳に掛けようと手を伸ばしたところで、ふと手を止めた。


「…………」


 数秒考えてからきゅっと手を握り、そのまま腕を引っ込める。


「……おやすみ」


 少し寝苦しいだろうが、意識の無い彼女には触れられない。

 ――私は灯りを消し、ミサキの部屋を後にした。








「やだよ」

「……」

「……」

「……」


 翌日、私は予想通り朝早くからギルドに呼び出された。というより拉致られていた。いつも通りゆっくり朝食を堪能していたら、昨日と同じギルド職員さんが般若の形相で迎えに来たので仕方なく、だ。そんな彼に少しびくついてしまったのは秘密である。この私を萎縮させるとはあの人、実はかなりのやり手なのでは。


 そんな職員手練れ説を考えていれば、あっという間にギルドに着いた。そして連れてこられたギルドの個室で一通り昨日の聴取をされ、内容がノーリ君たちとの話とも概ね一致してると言う事でお終いだと思ったのだが、その後話があるとギルドマスターに呼び止められた。


「はあ、もう一回言うぞ。王が、お前を欲しがっている」

「キモ」

「そういう意味じゃねえわ! それに貴族に聞かれたら不敬罪だぞ気をつけろ!」


 彼の話の内容は単純だ。この国の王様は、私に従属して欲しいらしい。


「ただの庶民な私が高貴な人に仕えるとか無理ですよー。くそだるい」

「少しは歯に衣着せろ。本音駄々洩れだぞ」

「それに正確には庶民じゃないですよね」

「準男爵じゃなかったでしたっけ」

「ああん?」

「…………」

「…………」


 何の話かと思えばくだらな過ぎた内容に脱力する。そのままやる気なさげにソファーに寝転んだ私に、文句を言うギルドマスター。そして便乗する職員二名。


「……準男爵なんて無理矢理送られた、ただの称号だよ」

「ああ、前にドラゴン倒した時に褒章で貰ったんだっけか」

「要らないって言ったんだけどねー。義務は果たさなくていいから権利と名前だけ使ってくれってさ」


 本来準男爵という地位はその栄誉を得るために多額の金を国に支払う必要がある。平民が爵位を得るための位だからだ。しかし国からは、金は要らないから爵位を持ってくれと言われた。辞退したかったが、名目としては国を守った褒章という名の贈り物であった為、断ることは体裁が悪かった。というより多くの貴族が見守る中、王様のお気持ちを断った方が敵が多くなってしまうので、仕方なく受け入れたものだ。

 まあほぼ最下の爵位に近いが義務を果たさなくて良いのであれば、無いよりもあった方が便利なのも事実。なので割り切った。あちらも私の忠誠は期待しておらず、ただS級冒険者()の名前を自国に連ねたかっただけだろう。

 だから名を貸し合ってはいるが、だからといって私がこの国に従属しているわけではない。爵位を持っていると言っても、私たちは名ばかりの関係なのだ。



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