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1~4話までが短編と同じ内容です。
「つまんないぃ〜〜〜」
私はここ数日口癖になった言葉をため息と共に吐き出して、ベットに倒れ込んだ。
「楽しみがない。癒しがない。幸せとは何ぞ?」
枕に顔を埋めたままぶつぶつと不満を吐き出す。
私は俗に言う転移者だ。ある日気付いたらスーツ姿のままこの世界の道端に立っていた。
お城にいて恭しく魔王を倒して下さいとか言われてないし、魔物に襲われて妙にタイミングの良いイケメンが助けてくれる
というイベントも無かった。勿論転生でもなかったのは鏡で確認済みだ。まんま私だった。
暫く状況を呑み込めず固まっていても日差しが落ちていくだけ。仕方なく近くにあった村へ行き、そこを拠点としてこの世界の基本的な事を覚えながら日銭を稼いだ。そこでも少し物語のような「おおあなた様は!」という展開を期待していたのだが、世界は甘くは無かったということをここに記載しておく。
そうやって日々を過ごし、ある程度違和感なくこの世界の人とコミュニケーションが取れるようになったところで、お世話になった村人にお礼を言ってもう少し規模の大きい町に行く。
村は村で良いところがあるけど、私は現代っ子。電気やトイレ事情が前時代的な村は少し不便で、栄えた町を目指した。
この世界は剣と魔法の世界であり、科学の代わりに魔法技術が発達している。高価すぎることもないが安くも無い、家電のような役割を果たす装置は自給自足の村には無いが、人が集まる町には常設されているらしい。それを聞いて迷いなく近代的な生活を選択し、私は町へと拠点を移した。
「がむしゃらに働いて3年間…。私は本当に頑張った」
魔王はいなかったけど魔物はいる。魔物がいれば当然、人々の安全を守る為にそれを狩る人がいる。それをこの世界では冒険者と呼ぶのだ。そちらについてはファンタジーの王道に乗っかるらしく、冒険者ギルドなるものがある。
冒険者はそのギルドに登録すると、魔物討伐等の仕事の依頼を受ける事が出来るようになり、更には村や町などの関税がタダになる。冒険者がいるだけで単純に戦力になるかららしい。
冒険者なんて基本荒くれ者なのでその分諍いも起きるけど。その場合は時国直下の常駐衛兵が取り締まり、時にはギルド経由からも罰則があるのでこれでまあまあ平和が保たれている。
「お金はある。自由もある。けれどあるものが圧倒的に足りない…」
そしてたまに王道を踏むこの異世界転移。魔王様討伐イベントやイケメンとの出会いはくれなかったが、それ以外の特典はくれた。
「ありがたいけど欲しかったのはこれじゃ無いぃ」
それは、力。圧倒的な力だ。
俺最強! の定番とも言えるチート能力だ。剣は怖いから握った事はないけど、魔法の力がめちゃくちゃ強かった。
イメージするだけで魔法が発動する。そして普通は魔力に制限があるのだが、私には無い。強い。強すぎる。
そのおかげで女一人で旅が出来るし、お金も困る事無く稼げるのはありがたい。ありがたいんだけども。
「私はロマンスが欲しかったんだよ〜っ」
出会い運だけは絶望的に無かった。
何で?女主人公の異世界転移って言ったら乙女ゲームの世界でしょ?! 王子様は? 騎士団長様は? すれ違って育った義理のお兄様は〜〜??
「ううう」
頼りになるが荒くれ者としても有名な男性達はすまんがタイプではない。私は線の細い男性が好きなんだ…!
それに私の方もあまりモテない。魔法チートの私はちょっと有名になりすぎて、男性の方が近寄ってこないのだ。
何せ国が滅ぶと恐れられたドラゴンを単体で倒した女。
褒章はたっぷり貰ったけれど、恐ろしい女という称号も得た。
そのせいで基本自由を愛する冒険者達は私を恐れ、貴族達は身分差でどう頑張っても平民である私は愛妾にしかなれない。現代思考を持った私は浮気相手になるなんて論外だ。私だけを愛して欲しいに決まってる。
つまり、実力(物理)はあるのに恋愛運が無い。
それが今の私の立ち位置なのだ。
「さみしいぃよぉおおう!」
この世界で活躍するのも充実してて楽しいけれど、こんなに長い間独り身は寂しい。
前の世界は働いて帰って寝るという生活だったから未練は無いけれど、こちらの世界でもそれは変わっていない。金も名声もあるけどラブがない。そろそろ淋しくなってきたぞ。
誰かを愛したいし愛されたい。抱きしめて欲しい。誰かと時間を気にせずおしゃべりしたい。一緒の時間を共有したい。
でも誰でもいいってわけじゃない。私を絶対裏切らず、怖がらない人がいい。
「うわあああん!どうすればいいんだあああ!」
頭を抱えて毛布を被った。
※※※
「お、ドラゴンイーター様じゃねえか」
「その恥ずかしい名前即刻止めて。そして食べてないから」
翌日、私は遂に禁断の場所へ訪れた。
「まあまあ。で、S級冒険者様はどんな奴隷をお求めで?」
それは地球では顰蹙を買うであろう場所。奴隷市場だった。
「戦闘から家事、愛玩まで色々あるぞ」
この世界ではまだ奴隷制度が残っている。と言っても過激なイメージがあるかもしれないが、何をしても良いというわけではない。いや、人が人の所有物になるので持ち主の倫理観次第か。日本で近いのは遊郭だろうか。
ちょっとした時間手伝って欲しいならその分の時間を買う。身請けしたいならその人ごとまるっと貰う。
店に所有されている間は店がある程度商品である彼らを守るが、使い物にならなくなったらその扱い方は酷くなっていく。
身請けも本当に愛し合っていればよいが、結局は人の物になるのでその心次第だ。
「何をお求めで?」
少し醒めた思考を泳いでいたところで、店主の声にハッとする。私もその奴隷を買いに来たのだ。とやかく言う権利は無い。
「ドラゴンさんは魔法使いだから剣闘奴隷か? いや単騎であのドラゴンを倒す強さだ。いらねえか。なら家事奴隷か?」
「……」
言いづらい。わざとか。
おひとり様が寂しいからとりあえず側にいてくれる人が欲しいんだよ。それも見た目が好みのな。
前の世界の価値観で今まで躊躇していたが、このまま待っても魔力ゴリラとして有名になってしまった私にもう出会いは期待出来ない。
「…愛玩」
「ん?」
「愛玩が欲しい」
「…ウソだろ」
後ろめたさで小声になってしまった言葉を言い直す。すると店主が耳の穴をほじくって聞き返してきた。