本当の仮想環境 その2
河野さんが前にやっていたメニューって表示できるのかな? 確か左手の人差し指で上から下に動かせばよかったよね。
おっ。メニューを表示できるね。
ドラグスレイブってあるのかなぁ?っとメニューを探っていたら、河野さんの声が聞こえてきた。
「もしかして、メニューをいじっていますか?」
「はい」
「どうかしましたか? 問題でも?」
ここでドラグスレイブを撃ちたいと言ったら止められるかもしれないので、ごまかしの一択かな。
「いえ、何ができるのか見ていただけです。音楽室ってありますか?」
「仮想環境の構成は同じなので、ありますよ」
「わかりました」
私は音楽室に歩いて移動した。
兎さんが調整したピアノに興味があったので、早速弾いてみる。
『ド』 響きはスタインウェイ。弾きごごちも遜色がない。連打しても鍵盤の戻りも問題ない。
「詩織さん、弾いてみてください」と絵梨香さんの声がした
「わかったわ」
フンメルの『小さなワルツ』を弾きてみた。軽やかな音。
うーん。次はショパンの『ノクターン Op.9-2』かな。トリルも入っている曲。これもいいわね。
アレクサンドル・スクリャービンの『12の練習曲 Op.8』。音域の広い分散和音や激しくかき鳴らされる右手のオクターブのメロディーがあるけど、問題ない。
本当の環境で弾いているみたい…
途中から、誰もいないから自分の練習で弾いていたのに、拍手が聞こえてきた。
ここは仮想環境だった。忘れていた。
「すごいです。アバター操作も全く問題ないようですね」
「あ! 実験中だったのですね。弾いているときは仮想環境であることも忘れていました。ピアノを弾ける環境として売り出したらすごいですよ。調律された最高級のピアノを存分に時間関係なく弾けるでしょ?」
「仮想環境に入れるのは詩織さんだけですよ」
「あ、そうですね。次はファンタジーエリアに行きたいです。ワープ?転送?はメニューからできますか? それとも、アルジャーノンがいますか?」
「アルジャーノンはいません。こちらで転送します。立ち上がってください。いいですか?」
「はい」
一瞬でファンタジーエリアに移動した。
「わぁ! すごい…」
「前回の実験でもファンタジーエリアと同じですよ」
「前回もすごかったですが、リアル感がまったくレベルが違います! 別次元です」
「どう違いますか?」
「うーん。何が違うんだろう… 前回とは触感が増えているのですよね?」
「はい。嗅覚と触覚も増えています」
「そっか、森の匂いと空気感?があります。完全に森です。さっきは部屋だったので意識しませんでしたが、土の柔らかさが伝わってきます」
私は歩いたり、ジャンプしたりした。
重力を感じるね… 飛べないかなぁと考えながら、近くの木を触ったら、幹のゴツゴツした感触が手に伝わる。
「これってすべて兎さんが作ったのですよね?」
「兎さんが指示してアルジャーノンが作りました」
「ものすごく凝っていますね」
「はい。ものすごくコストがかかっています。テクスチャじゃないのでポリゴン数が半端ないです。それにリアルタイムでレイトレースの計算もしています。離れた場所の木のポリゴン数を減らしてテクスチャにしていますが…」
「詩織さん、もうそろそろ終わりにしたいのですが、いいですか?」と絵梨香さんが言った。
「わかりました」
「では、ログアウトしますが、詩織さんの本当の体は水の中にいますので、戻っても慌てないでください」
「あっ。そうでした。わかりました」
「ログアウトします」
私は水の中に戻ってきた。絵梨香さんが水の中って言っておいてくれてよかった。パニックになったら危険だったね。
「詩織さん、体に変化はありませんか? ゆっくり手足を動かしてみてください」
手足を少し動かし、手を開いたり、閉じたりしたが問題ない
「問題ないようです」
「では、終わりにします。引き上げますね」
私は吊り上げられた… 魚の気分だから、釣り上げられたいう方が適切かな。 うーん。仮想世界ではピアノを弾いて優雅だったのに、吊り上げられるなんてギャプがすごい。
すぐに帰れるかと思ったら、身体検査に2時間もかかった…




