仮想世界に行こう! まだ準備段階 その2
仮想世界に入るための準備のための試験を何度か実施した。
視覚と聴覚が揃った時点で、バックアップされている仮想環境に入ることになった。
神木さんや兎さんがいる仮想環境ではない。
途中段階は子供達に会うと子供達に影響があるかもしれないからという理由らしい。
理由がわからないので聞いてみると、変な動きをするとトラウマになるかもしれないからという理由だった…
「詩織さん、これから仮想世界ですが、椅子から立たないでください。 気持ち悪くなったら教えてください。 即座に停止します。 よろしいですか?」
「わかりました。 お願いします」
味気ないMRIの部屋がリビングに変わった。
誰もいないリビング… 私の家のリビングと同じだけど、ものすごく寂しく感じる。
見渡していると、河野さんの声が2重か、こだまかわからないが変に聞こえてきた。
「「詩織さん、問題ないですか?」」
「問題ないですが、河野さんの声が2重に聞こえます。」
「いかがですか? 今度は問題ないですか?」
「なぜ2重に聞こえたのですか?」
「MRIの部屋で聞こえている私の声と、仮想環境内での私の声が混じったからだと思います。 今は仮想環境内の私の音声は切りました」
「なるほど、わかりました。 現実との差がないので違いがわかりませんでした」
「詩織さんの耳はいいので違いがないのでしょうね。 でも目は近眼なのでくっきり見えるでしょ?」
「はい、くっきり見えますが、リビングが綺麗というか、もの寂しいというか、足りないというか…」
「足りないですか?」
「はい。 何が足りないのかわからないですが… ファンタジーエリアに行きましょう!」
「わかりました。 では、変更します」
見え方はヘッドマウントディスプレイで見るのとは段違い!
シンデレラ城も森も何もかも圧倒される。
「わぁー。 すごい…」
私は空を見たり、下をみたりとキョロキョロした。
最初は本当の視力よりはっきり見えるからかと思ったが、下草や湿った土や木が仮想環境には見えない。
何も知らずにこの状況に入れられると、転生したのではないか?と錯覚するかもしれない。
「ほんとにすごいです。 ん?」
「どうしました?」
「くっきり見えているけど、なんか気持ち悪いです」
「一度、切りますね」
味気ないMRI部屋に戻ってきた。
河野さんがオペレーションルームから急いで出てきた。
「大丈夫ですか? 詩織さん!」
「大丈夫です」
「見え方に違和感はないですか? 手に違和感はないですか?」
私は手を開いたり閉じたりした
「…はい。 大丈夫です。 酔ったみたいです」
「たぶん、本当の頭の傾きと画像の変更による情報にズレがあり、酔った状態になったのでしょう」
「そうかもしれません。 触覚と嗅覚がない状態でこれだもの。 完全になったらと思ったら楽しみです。 この環境を作った兎さんの執念を感じるわ。 神木さんも兎さんも正気を保てるのは現実と変わらない世界を見れるからかもしれませんね。 拠り所が必要ですもの」
「正気を保つですか… 考えたことがなかったです。 うん。なるほど、そうですね。 神木さんは小説だし、兎さんは部屋やファンタジーランドの環境なんですね。」
「神木さんは小説なんですか?」
「読み漁っていますよ」
「小説を読むことで正気が保てるのですか?」
「小説って、小説の世界観に浸れるじゃないですか、ある意味現実ですよね?」
「そうですか…」
「詩織さんが羨ましいです…」
「どうしたのですか? 急に」
「視放線とその周辺を重点的に高性能MRIでデータを取得して調整したのですが、私では映像がはっきりとは見えないです…」
「見えることは見えるのですか?」
「私では精度が良くないのでズレているのかもしれません。 次は、三半規管の情報を入れるので水槽での試験です! そうしないと、上下の感覚が狂うかもしれませんので。」
「水槽ですか…」
「はい! 楽しみです」
少し気落ちした河野さんが水槽で機嫌が良くなったが、私は腹が立つので河野さんを軽く睨んだ。




