仮説(後編)
今日は千秋先生に仮説を説明しなければならない。
仮説にしては荒いが納得してもらえるだろうかと考えていたら、千秋先生が来た。
「神木君、明人君。おはよう」
「「おはようございます」」河野さんと私の声が揃った。
「早速だけど、仮説は立った?」
「一応」
河野さんは少し驚いて、「昨日ずっと悩んでいたようだけど、仮説はできたのか…」と呟いた。
「じゃ、披露して」
「では、心拍の同期の発生は電気によるものであると仮説しました」
「なぜ、電気なんだい?」
「神経の伝達は電気信号だからです」
「じゃ、外部から電気を流すことで心拍の同期が発生したということかい?」
「神木さん、前に話したときは外部からだと大きいエネルギーが必要だが、今回は大きいエネルギーは使っていないということだったのでは?」
「そうです。大きいエネルギーは使っていないと思います」
河野さんは少し不服そうに「じゃ、神木さんは小さいエネルギーで患者の心拍を操作できるということ?」と聞いた。
「操作というのは少し語弊があるような気がします。『共振』が関係しているというのが私の仮説です」
「固有振動を与えると振動が大きくなる『共振』?」
「振り子の共振の方がイメージしやすいかと思います。糸にぶら下がった錘を揺らすとその揺れがもう一方の糸にぶら下がった錘に伝わり、動きに同期が発生します。この『共振』で『心拍の同期』が発生したと考えています」
「じゃ、神木君が電気による振動を与えて心拍を同期という『共振』を起こしたってこと?」
私は千秋先生を見た。
「そうですね。仮説ですが…」
「じゃ、その仮説で説明できるか考えてみようか、最初は片頭痛ね。これは、心拍性の痛みだから心拍が収まれば症状は緩和するから、OKとしようか。次は電磁波過敏症だけど、これは説明がつく?」
「電気による振動で電磁波として出ていたのではないかと…」
「ま、いいわ。最後は免疫抑制剤ね」
私は一度ゆっくり目を閉じ、千秋先生を見て、答えた。
「『共振』は心臓以外にも影響を与えているのではないか?と思います。その影響ではないか?と…」
「免疫抑制剤だけど、その後、不要にはならなかったようで今は必要らしいわ。でも投薬の頻度は減ったらしいわ。で、最後に聞くけど『共振』が起こった人と起こらなかった人の差をどう考える?」
私はその質問を全く考えていなかった…
「『共振』が起こった人と起こらなかった人の差ですか… 全く考えていなかったです。 そうですね… 相性ですかね?」
「相性ねぇ」
「千秋先生。仮説はどうでしょうか?」
「…『共振』と言うのは面白いわ。大きなエネルギーではなくても良いってのがいいわ。 ところで、他に仮説は?」
「いえ、これだけです」
「わかったわ。この『共振』の仮説を立証するため、人体実験のための患者をジャンジャン用意するわ。その実験では微弱電流と微弱磁場の計測ができる機器が必要だから、明人君準備してね。人体実験は明日からね」
「計測機器は用意しますが、人体実験って人聞きが悪いので、検証と言い換えてください!」
千秋先生は河野さんの「人体実験」の言葉を変えることは無視したようだ。
「神木君は『共振』が発生するメカニズムと相性の仮説も考えてね」と言い放つと出ていった。
「ふぅ」と私は息をついた。
「神木さん。『共振』ねぇ。よく思いついたね。仮説は出せないと思っていたよ」
「『同期』と言う単語がキーワードのような気がして考えました」
「明日のために、計測機器を用意しなきゃ」
「お手伝いしますっと言いたいですが、ハードはわからないです」
「いいよ。宿題の仮説でも考えておいて」
また、仮説か…
これから、1週間、ずっと人体実験をすることになった。私はよく患者を揃えれるなと呆れていた。