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詩織が知らなかったこと

「詩織、脳モデルの発表は嘘ではないか?という掲載が海外のネット上で増えてきている。私からも警戒するように香織に言っておくが、気をつけるように」

「わかりました。気をつけるようにします。どうして嘘という話になっているのですか?」


「おそらく、人間の脳をコンピュータで再現しても人として動作しなかったからではないか?」

「もう実装して試験を実施して結果まで出ているのですか… すごい速さですね」


「金も人もあるところが実施するからな。後追いの技術の再現はそれほど難しくはない」

「ここでも結構失敗しましたよね?」


 河野さんが遠い目をして「失敗しましたねぇ」と言った。


「あぁ。おそらく、海外の試験ではピクピクとしか動かない物しかできないのだろう」

「脳モデルは光量子コンピュータで動作していることは公開情報ですよね?」


「そうだが、光量子コンピュータのチップはまだ発売していないし、従来のシリコンではないのですぐに実現されないだろう。あの子供達のように人格を持った脳モデルを作るには環境が重要だ」

「そうでしたね。学校を作り、触感などの5感で感じられる空間を整備して、教育できる人がいないと」


 河野さんが遠い目をしているので、大変だったなぁと考えているような気がする。


「教育を大規模言語モデルのAIに行うことが可能であれば、海外でも実現するかもしれない」

「そうですね。人と話していると違いがないですからねぇ。…そもそもなんですが、そんなに優秀なAIができるなら、脳モデルを作る必要はないのでは?」


「そうなんだ。脳モデルでなければならない理由は薄い」

「そうなんですか… 現在のAIの欠点はなんですか?」


「突発的な状況変化に対応できないと言われているな」

「例えばどんなことですか?」


「自動運転なら、落雷や地震などの天変地異、バックしてくる車などの交通違反する車などの対応だな」

「そんなの私も対応できないですよ」


「ははは。詩織はパニックになるとフリーズするなぁ。求められているのは詩織を超えるレベルだな」

「まだ、フリーズはマシですよ。暴走されると自動車は破壊兵器のようなものですからものすごく危険です」


「でも、河野さん。最近、お年寄りが乗る車が暴走したりさせているじゃないですか?」

「そうですね。本人も周りも危険ですね… アクセルとブレーキ両方の場合はアクセルをキャンセルするとか… そもそもアクセルもブレーキも踏むという同じ動作の仕様が良くない… ということは、暴走事故は仕様バグだよな…」


 千秋先生は河野さんを放置して話し始めた。


「現在のAIは画像認識などの個々の能力としては人を超えている。現時点で人を超えていない部分は、学習効率とエネルギー効率だ」

「学習効率はNPCの動きのときに聞きました。エネルギー効率ってなんですか? 脳が疲れた時は甘いものがいいというぐらい、エネルギーを多く必要なのでは?」


「脳が多くのエネルギーが必要というのは他の臓器と比較してだ。電気量だけで見ると脳は約20ワットで動作していると言われている」

「20ワットって電球ぐらい?」


「そうだ、暗い電球ぐらいだな。大規模言語モデルの運用方法にもよるが、1つのデータセンタが必要だが、データセンターは一般家庭の数万軒分程度の電気量が必要だな」

「そんなに必要なんですか?」


「あぁ。でも、光量子コンピュータは一般のコンピュータより高速で省電力だけでなく、ほとんど熱くならないから、冷やす電力は少なくて済む」


「熱くならないのがそんなに重要なんですか?」

「データセンターの電力の半分は空調だからな」


「え! 冷やすのにそんなに電力を使っているのですか!?」

「だから。空調の電気代を減らすためにいろいろ努力をしているぞ。世界を見ると昼と夜は必ずあるから、夜のデータセンタを活用して空調を節約したり、寒い地方にデータセンタを設置したり、海にデータセンタを沈めたりしているぐらいだぞ。ここは地中だな。攻撃に対する防御もあるがな」


「そうなんですか、いろいろ努力しているのですね。知りませんでした。攻撃にたいする防御ってなんですか?」

「ミサイルだな」


「ミサイル? ミサイルって飛んでくるやつですか?」

「そうだ。ここは市ヶ谷だぞ」


「市ヶ谷?」

「もしかして知らなかったのか? 市ヶ谷には駐屯地があるだろ? ここは国の設備で駐屯地のデータセンタでもあるんだぞ」


「知りませんでした…」

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