仮説(中編)
審査の2例ってなんだろうと思い、データを見た。
片頭痛の軽減? 電磁波過敏症の悪化? こんなのが2例?
しかも、悪化って…
片頭痛ってなんだ?ネットで調べるか。
症状は『血管が拡張することでズキズキとした拍動性の痛みが生じる』か。
原因は『誘発因子・増悪因子 · ストレス、ストレスからの解放、疲れ、寝不足/寝すぎ · 月経周期 · 天気の変化、温度差、光、音、におい · 運動、欠食、性的活動、旅行』って、なんでもありか。
血管が拡張して発症するなら、脈拍の同期と関係するかもしれない。
次は電磁波過敏症か。これもネットで調べるか。
症状は『電磁場に曝されることによって身体にさまざまな不調が現れる』か。
原因は『電磁場』か。ま、そうだろうね。
心臓の拍動は電気信号で起こるのだから、電気と磁気は関連すると考えると、全く的外れでもないのかな。
じゃ、次はデータを見るか。心拍以外の体温、脳波は同期が見られないな。それ以外のデータで電磁波? 光度?なんてのがあるけど、そんなものも取得していたのか。
人間が光る? 仏様じゃあるまいし。それとも蛍? どちらにしろ見ればすぐにわかるから違うな。
心拍の同期から考えるかな。
心拍は心臓の拍動だよね。心臓は電気信号で動くということは、電気が出ているってこと??? 電気ウナギは電気を出せるから、あり得る? 外から心臓を動かすといえば、AEDだけどそんな電力が出るならすぐにわかるから違うな。
電気じゃなきゃ電磁波かな。
電磁波過敏症の人が悪化したということから、電磁波も関係しそうだけど、計測結果を見ると誤差範囲のようだね。
手から電気が出たり、電磁波が出たりなんて、厨二病じゃあるまいし。こんな仮説言ったら、かなり痛い人だよな。
「…考え込んでいますが、まとまりませんか?」と河野さんに声をかけられて、びっくりした。
「びっくりしました」
「すみません。悩まれているようだったので…」
「ありがとうございます。課題が難しいです」
「千秋さんも突破口を見つけるために、当事者なら気づく点があるんじゃないか?と考えていたようですし、難しいと思いますよ」
私は先ほど考えていた内容を少し思い浮かべ、話してみた。
「脈拍が同期するということは、外部から何か影響を与えたということだとは思いますが、それが電気や電磁波と考えるのが普通かと思います。光だと出た瞬間にわかりますよね」
「可視光ではないかもしれませんよ」
「!? なるほど… では光もあり得るということですね。でも光度計でしたよね?」
河野さんは笑いながら、裏事情を教えてくれた。
「千秋さんからは、人から発射される光のスペクトル分析器を用意しろってことだったんですが、そんな計測器はないですよね。だから仕方なく光度計を用意しました」
そんな理由で光度計があったのか…
私は少し考えを巡らせた。
「患者の脈拍に影響を与えるには相当なエネルギーが必要ですよね」
「そうですね。AEDなんで1000Vを超えますからね。心臓以外の筋肉にも影響するでしょうから、流れれば計測するまでもなく何か起こったと分かりますね。でも、神木さんの場合は外部からわかる現象は起きていません」
「そうですよね。患者が痛がったり痙攣したりしなかったですし、触れた部分の皮膚も赤くもなっていませんでした」
「では、神木さんは電気や電磁波ではないとお考えですか?」
「…分かりません。心拍が『同期した』ということに何かヒントがあるような気がしますが、思いつきません」
「千秋さんは3日後と言われたので、明日には考えをある程度まとめる必要がありますが、千秋さんはダメもとのようでしたから、気楽に考えてください」
「はぁ」
うーん。手詰まりだなぁ。今日は終わりにした。