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神木さんとアルジャーノン

「明人君、神木君とアルジャーノンの意見の違いをどう思う?」


「どちらかの勘違いか、どちらかが嘘をついているでしょうか?」

「嘘? 神木くんはともかく、アルジャーノンが嘘をつくのか? 嘘をつくメリットは?」


「嘘をつくメリットですか? …ないですね。じゃ、どちらかの勘違いでしょうかね? すると、神木さんはアルジャーノンの質問を質問として捉えていないという勘違いか、アルジャーノンは神木さんに質問したと思い込んでいるという勘違いでしょうか?」

「神木君は最初の数度は質問されたことを認識しているぞ。その後は質問として認識していないということはおかしいのではないか?」


「では、アルジャーノンが神木さんに質問したと思い込んでいるということですか?」

「回答が得られないと、詩織の要求に応えられないのではないか? 仮想環境の詩織もアルジャーノンに多くの要求をしていたようだぞ。2人とも前回と違う結果を出すことが多いんじゃないか? それを回答が得られたという思い込みだけで処理できるのか?」


「できませんね」


 千秋先生と河野さんの話が一段落ついたようなので、私の意見を言えそうだ。


「あのー。千秋先生」

「なんだ詩織」


「神木さんもアルジャーノンも両方とも正しいこと言っているのでは? 神木さんは質問を受けたつもりじゃなくてもアルジャーノンの質問に答えていたのでは?」

「詩織さん、そんなことできないと思いますよ」


「うーん。でも両方とも正しいと思うなぁ」

「では、詩織の意見を検証しよう。アルジャーノンが神木さんに質問時に神木さんの脳モデルの活動状況を見れは、アルジャーノンの質問が神木さんに届いているか否かがわかる」

「神木さんの脳モデルは常時活動していますよ」


「明人君、もう少し状況を分解すれば… そうだな、アルジャーノンの質問時に神木君の脳モデルの活動が活発化し、アルジャーノンが回答を得た時間後に通常に戻るかどうかを見ればどうかな?」

「なるほど、変化があれば、アルジャーノンは神木さんに質問し回答を得ていることになりますね。逆に変化がなければ、アルジャーノンは神木さんに質問した気になっていることになりますね。調べます」


 河野さんが、端末を操作し、アルジャーノンの質問と回答の時間軸に神木さんの脳モデルの活動グラフを重ねた。


「アルジャーノンが質問すると、神木さんの脳モデルの活動が増えていますね。そして、回答後は活動が減りますね。ということは、神木さんが質問に気づいていないか、質問を受けていないと嘘をついているということですね。神木さんが嘘をつく理由がないということなら、神木さんがアルジャーノンの質問に気づいていないことになりますよ」

「そうなるな…」


「神木さんの脳モデルが活動しているかどうか判断基準はなんですか?」

「ニューロンをシミュレートする光量子チップの活動だよ」


「それって、大脳部分ですか?」

「そうだよ」


「大脳以外の部分はどうなんですか? 視覚、聴覚とかは?」

「じゃ、先ほどのグラフに重ねますね」


 河野さんが端末を操作した。


「視覚の神経、聴覚の神経の活動を重ねますね… ん? 視覚も聴覚も質問されてもほぼ変わりませんね」

「質問されているとき、神木さんは何をしているのですか? 寝ている?」


「いえ、現実世界を忠実に再現するため、信号機や標識を作っていますね」

「そうですか… 何かをしながら質問の回答はできなくはないでしょうが、視覚も聴覚も利用せず、回答をまったく覚えていないというのは不思議ですね」


「アルジャーノンは視覚も聴覚も利用せずに神木さんの大脳に直接問い合わせをしたということですか?」

「そうなるな。ちょっと考えにくいが…」


 河野さんが眉間に皺を作りながら考え込んでいたが、「大脳の脳モデルは開発用のAPIが存在しています。裏技みたいなものですが… それを利用すれば大脳に直接アクセスできます」と言った。


「なるほどな。明人君が言うように開発用APIを利用すれば可能だな」

「APIってなんですか?」


「APIはapplication programming interfaceの略でソフトウェア同士を接続するためのソケットのようなものです。これを使えば、視覚や聴覚を利用せずに直接大脳に命令を送ることができます」

「でも、神木さんの記憶に残っていないことの説明がつきませんよ」


「それはですね。開発用なのでニューロンの動作も指定できるのです。ログを調べるとはっきりすると思いますが、ニューロンの変更を実施しないというフラグ付きの関数をコールしたと思います」

「なるほどな。変更できないから神木君の記憶にも残らないわけか…」


「関数をコール? 関数って中学で習う関数ですか?」

「違いませんが、かなり違います…」

「はい?」


 千秋先生は少し疲れた顔をして「詩織は、少しコンピュータについて勉強しろ。話が進まん」と言った。


「おそらく詩織の仮説が正しいだろう。神木君がアクセスされていることを知らないことは問題だな。APIにセキュリティをかけるか…」

「問題かもしれませんが、AIが脳モデルを使って問題を解決したということですよね? AIが道具を使ったということですよ! 自己拡張ですよ!」

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