学校見学 その1
2週間後、河野さんから学校ができたと連絡がきたので、生命科学室に向かった。
「河野さん、こんにちは」
「こんにちは、詩織さん。早速、学校を見にいきますか?」
「はい! お願いします」
分析室に行く途中で、私は河野さんに質問をした。
「『リンクイン』でしたっけ? それで中に入れるのですか?」
「『リンクスタート』ですよ。私がいるので、言う必要はないですよ」
「あ、そうそう『リンクスタート』でしたね。せっかくなので言います」
分析室に着くと、私はヘッドマウントディスプレイをつけて、『リンクスタート』と言った。
私のリビングに入った。
リビングのソファーに神木さんと仮想空間の私が座っていた。そこが神木さんのお気に入りの場所なのかなぁ?
「神木さん、私、こんにちは。学校を見せてもらいに来ました」
「詩織さん、こんにちは。今日は一人ですか?」
「こんにちは、私。うーん、なんか自分にあいさつするって変な気がしますね」
「そうよねぇ。呼び方を考える? あ、河野さんが入ってきましたね」
河野さんがリビングに現れた。
「神木さん、仮想空間の詩織さんこんにちは。詩織さんを学校に案内してください」
「やっぱり、呼び方を考えましょう。わけがわからなくなりますよね」
「わかりました。私が詩織2と名乗りましょう」
「だめですよ。仮想空間の私も私なんですから! じゃ、伊織にしましょう」
「じゃ、私は千織にします」
「え! 私が伊織なんだから、あなたは詩織でいいんじゃない?」
「そんなわけにはいかないですよー。私だけが詩織を名乗れないですよ。千織に変えます」
「で、どっちが、リアルの詩織さんですか? 本当に区別がつかないです…」と河野さんが聞いてきた。
「伊織の私がリアルです」
「名前で区別できるのは嬉しいですけど、ややこしい… 名札をつけませんか?」
「えー! 幼稚園児みたいでやだ!」
「そうそう。ダメです」
「じゃ、猫耳と兎耳でいかがです? ウサギといえば、仮想を連想するので、仮想空間の詩織さんが兎耳で」
「うーん。どう思う?」
「ま、いいか」
「はぁ。そこまで、息ピッタリ… ちょっと待ってください。設定しますね」
仮想空間の端末を操作して、私に猫耳がつき、仮想空間の詩織に兎耳がついた。
「河野さん、どうしてこんなに簡単に耳がつくんですかぁ?」
「ま、そこは準備がいいので… で、呼び方ですが猫さんと兎さんでお願いします」
「「わかりやすいから、いいか…」」
猫耳と兎耳の私が顔を見合わせて言った。
「真織さんはいないのですか?」
「真織さんは、自室で勉強しています。教室に案内します。こちらに」というと、リビングを出た廊下のつきあたりの扉を開いた。
「家の扉を開けるといきなり、教室なんですね。教室の扉が引き戸のイメージがありましたが…」
「学校内は基本的に引き戸にしています。リビングに繋がる扉だけ開戸です」
「ポリシーがあって決めているのですね。この教室は10席ですか?」
「とりあえず10席用意していますが、現在、同時起動ができるのが5名です。来週には10名になる予定なので、すぐには10席でも埋まらないですよ」と河野さんが説明した。
「河野さん、今は、神木さん、兎さん、真織さんの3名が起動ですか?」
「そうですが、まだ縦笛ができないんですよ… 一応、気体の流れは実装しているのですが、正常に音が出ないのです。味覚については猫さん?の協力が必要ですし、水泳に至っては全く手付かずです」
「まだまだなんですね… 神木さん教室以外の設備はあるのですか?」
「あちらの扉にあります」
入ってきた扉の反対側に引き戸に案内された。
扉を出ると、学校の廊下だった。仮想空間だから広げ放題かもしれないけど、すごい構造だなぁ。
「猫さん。家から学校に直結しているって変ですよね?」
「あ、私もそう思ってた。仕方がないかなと思っていたけど、やっぱりダメだよね? 仮想空間だから、なんでもしていいってわけじゃないよね?」
「仮想空間はできるだけリアルにすべき。羽が生えて空を飛べるとかは夢だけど、リアルがあって初めてやっていいことだよねぇ」
「そうだよねぇ ということで、神木さん、河野さんリアルにしてください」
「はぁ。神木さん、リアルにするしかないですね」
「わかりました。変更します。隣の部屋が音楽室で、その隣が家庭科室です。その先の扉が体育館です。プールはまだできていません」
音楽室には、ベートーベンやハイドンなどの肖像画? がかけてある。妙にリアルよねぇ。
ピアノまである!
「神木さん、この部屋って妙にリアルですね。何かモデルがあったのですか?」
「3Dデータがあったので、そのまま利用しています」
「なるほど。で、ピアノは鳴らせますか?」
「私弾きましたよ。形はスタインウェイなんだけど、音はちょっと変だけど我慢できる。けど、弾きごごちがダメダメなんですよ。超がっかり」と兎耳の私が言った。
「弾きごごちは大切よねぇ。どうダメなの?」
「エレクトーンみたいでお話にならない。ハンマーアクションじゃないと思う…」
「いろいろと問題あるねぇ」
「むちゃ言わないでください。形は3Dデータがありますが、ピアノのハンマーの物理演算までは入っていませんから」
「でも、私とピアノが切り離せないということは、兎さんもピアノが必須ですよ」
「…なんとかします」
「そういえば、神木さんってトレーニングが日課とだったような気がしますが、トレーニングはどうしているのですか?」
「さすがに、仮想空間でトレーニングはしていませんが、調子がよくないです」
「そうですよねぇ。日課が崩れるのは精神衛生上良くないです。そのためにも、運動場なんかの整備が必要ですね」
「そうですね。自分でオブジェクトを作れるのだから、トレーニングコースを作ればいいですね」




