審査結果
早速、端末でトレーニングルームと温泉を調べて、行くことにした。
トレーニングルームに入ると心拍、酸素飽和度を測るブレスレットをつけるガイドが表示された。装着すると、「携帯とのリンクが完了しました」と音声が流れてきた。
私は見まわして「どこから鳴っている?」と呟くと「部屋にある複数の指向性スピーカの干渉を利用して、神木さんの耳の5cmの空間でのみ音が聞こえるようにしています」
「画像認識で人を特定し、耳の位置も特定か。状況から必要と考えられる回答を音声合成?」
「そうです。ロッカーはブレスレットで開閉できます。ウェアは2時方向の棚にあります」
「これ便利だなぁ」と呟くと、「ありがとうございます。ご希望であれば、専用ブレスレットが支給されます」
「ぜひ欲しいな」
着替えて、トレーンイングルームに入る。
「さて、どんな機器があるかなっと」と呟くと。
「トレッドミル、エキサイトクライムから、ストレングスマシンにフリーウェイトマシンまで一通りの機器が揃っています」
「何人か利用者がいるね」
「神木様はゲスト登録ですので、利用者との会話はお控えください」
「分かりました」
トレーニングを終えて、温泉も堪能して、夕食。
次の日も同じ。次の日も同じで、暇!と思っていたら、端末に明日の9時に迎えに来るというスケジュールが入った。
やはり、9時5分前、端末に香織が映し出されたので、私は部屋をでた。
「おはようございます」
「おはようございます」
「ついてきてください」と香織は踵を返した。
やっぱり、「ついてきてください」だよね。
香織さんがドアを開けると、ソファーには白衣の千秋先生と50歳ぐらいで敬礼したくなるような眼光の鋭い男性が座っていた。
「神木君。座って」と千秋先生が軽い口調で言った。
「はい」
「こちらの男性は所長の斉藤さんです」
「斉藤です。大変だとは思うけど、頑張ってください」
「こちらこそよろしくお願いします」
「挨拶も済んだし早速だけど、審査の結果は合格です。今日からここの署員です」
「DX推進部と聞いていますが、どのような仕事をするのでしょうか?」
「…DX推進部?」
「千秋先生、対外的な部署名です」と呆れたように香織さんが答えた。
「あ、そうそう。で、神木君は私の部下で補佐をしていただきますが、他の部署の雑用、いえ『補佐?』も仕事になるから」
「『補佐?』ですか? 具体的にはどのような仕事でしょうか? 私にできるでしょうか?」
「できると思ったから、合格なのよ」
「香織ちゃんは神木君の同僚になるから。仲良くしてね」
「よろしくお願いします」
「じゃ、仕事場に移動するよ」というと千秋さんが立ち上がったので、私は「失礼します」と挨拶をしてついていった。
「ここが仕事場ね。こちらは明人君」
「河野明人です。よろしくお願いします」
「神木公人です。よろしくお願いします」
「机はそれで、その端末を使っていいから」
「分かりました。で、ここは何の部署でしょうか?」
「私が好き勝手する部署ってのが正確なんだけど、お金の出どころは内閣情報室よ。次世代のテクノロジーの開発が仕事ね。ここは生命科学よ。神木君が起こした事例を研究対象にしようとしているの」
何か国がらみだと思っていたけど、内閣情報室とはねぇと思っていると、「あまり驚いていないのね」という声が聞こえた。
「私の事例って、免疫抑制剤が不要になったという事例ですか?」
「実は私は神木君の能力を疑っていて、審査をしたのよ。審査で2例だけど、神木君と患者さんで心拍の同期のような現象が起きていたのよ。詳しく調べれば、何か出るかもしれないじゃない?」
「では、審査のようなことをするのが私の仕事でしょうか?」
「どこを掘れば、いいかはわからないから、まず審査時のデータ分析を神木君も実施して欲しいの」
「データ分析は終了したのですよね?」
「視点を変えると何か出るかもしれないしね。現在のところ仮説すら立たないのよ。神木君がエスパーなんてのは結論にならないしね」
「とりあえず、分かりました」
「分析は明人さんと行なってください。それらしい仮説を2、3考えてください。期限は3日後ね。仮説をどれから掘るかを決めるから」
「ところで、香織さんはこの部署ではないのですか?」
「違うわよ。神木君の能力に興味があるようだけど… あとは明人君に聞いてね。私は仕事があるから」千秋先生は香織さんを見てニヤリとして言った。
千秋先生は言いたいことを言い放ち、香織さんの腕を取って出ていった。
「河野さん、千秋先生の仕事ってなんですか?」
「ここの主任兼、医者なので、医者の仕事に行ったと思うよ」
「この仕事ができるか不安なんですが…」