新脳モデル
千秋先生から新しい脳モデルが稼働したと連絡があり、ひさびさに生命科学室に行った。
「こんにちは、千秋先生。新しい子に会いにきました」
「こんにちは、詩織。わかっている。分析室に行くぞ」
分析室で、ヘッドマウントディスプレイを付けていると、千秋先生もヘッドマウントディスプレイを付けているのが見えた。
「千秋先生も一緒に仮想空間に入れるのですか?」
「GPUを追加したから可能だ。早くヘッドマウントディスプレイをつけろ」
真っ暗な状態から、リビングが表示された。
ソファーには、神木さんと20歳ぐらいの女性が座っていたが、立ち上がった。
私の隣には、千秋先生がいる。
「神木君、真織、今日は詩織を連れてきた」
「こんにちは、千秋さん、詩織さん。こちら真織さんです」
「真織です」
「詩織です。はじめまして、真織さん。名前はどなたが付けたのですか?」
「神木君が付けた」
「詩織さんに感じが似ているので、詩織さんに近い名前を付けさせてもらいましたが、お嫌でしたら改名します」
「嬉しいです。真織さんが嫌じゃなければ、ですが」
「ありがとうございます。今後も真織と名乗らせてください」
「真織さんは、私の記憶はあるんですか?」
「詩織さんは初めて会ったという気はしませんが、それだけです」
「千秋先生や神木さんは記憶にありましたか?」
「千秋先生は記憶にありませんでした。神木さんは目覚めた?ときに最初に見たので記憶にあったかどうかはわかりません」
「このリンビングや詩織の部屋は記憶にありますか?」
「このリビングは記憶にありません。詩織さんの部屋は入ったことがないのでわかりません」
「そうなのですか? じゃ、ここで生活しているのですか?」
「いえ、真織の部屋と私の部屋を作ってもらいましたが、私はほぼここにいます」
「千秋先生、どんな部屋か見ることができますか?」
「ついてきなさい」
リビングにつながる廊下にドアが2つあった。その一つを千秋先生が開けた。
「ベッドと机とクローゼットだけなんですね」
「そうです。真織の部屋もまったく同じです。眠りはしないのですが、横になると考えがまとまる癖があるので利用させてもらっています。服は端末で変更できるのでクローゼットは不要ですね」
「服の変更が端末でできるのですか?」
「はい。河野さんが設定してくださいました」
私はどうやって服を変更するのか気になった、ステッキをもって呪文を唱えるとキラキラと光が出てきて服が変わる?
「もしかして、ステッキを持って呪文を唱えると変更できるとか…」
『あ! いいですね。ステッキとか、変身ベルトとか…』と河野さんの声が上?のほうから聞こえてきた。
「明人君。余裕があるなら、アルゴリズムの改良を急ぎなさい」
『はい… わかりました』
「詩織が、変なことを言うから脱線したじゃないか」
「すみません。服の変更って見ることができますか? 一度裸になるなら見せてもらわなくていいです」
「変更は可能ですし、裸にならなくても変更できます。例えば… これに変更します」
神木さんは端末を操作して、ジャージ?を選択した。そして、端末から離れて直立する。するとスラックスとシャツからジャージに変わった。
「端末から離れて直立するのは意味があるのですか?」
「さぁ。服を変更する手順として河野さんに教わった手順です」
『座ったままだと、服を座った形に変更するのが面倒なだけです』と、またもや河野さんの声が上?のほうから聞こえてきた。
「真織さんが着ている服は真織さんが選んだのですか?」
「神木さんが最初に選んだものです」
「ジーンズにTシャツって… 普段の私と同じじゃん… もしかして、アバターも神木さんが選んだのですか?」
「真織さんが選ばなかったので、知識レベルから20歳のアバターを真織さんに適用し、真織さんと話をしてイメージにあうものを選択しました」
「じゃ、女性もイメージだったのですか?」
「真織さんの性格はかなりおっとりしているので、男性のイメージがわかなかっただけです」
「真織さんはよくすることってなんですか?」
「与えられた学習教材を実施しています」
「やってみたいこととかありますか? といっても仮想空間じゃ限られるか… 興味のある分野とかはありますか?」
「特にないです」
「うーん。神木さん、真織さんはいつもこんな感じですか?」
「はい。そうです」
真織さんの応答が少ないので、会話が続かないと思っていると、千秋先生が「もうそろそろ抜けるがいいか?」と聞いてきた。
「はい。神木さん、真織さん、また会いましょう」
「またな」
ヘッドマウントディスプレイを外した。
「千秋先生、真織って人っていうよりAIのようなんですが…」
「詩織もそう思うか… 最初はおとなしいだけかと思ったが、ChatGPTと話していると変わらないかもな」




