達也と公人 その後
「詩織は、分析室には私が連絡するまでは入室禁止。学業に勤しむように」
「またですか? 今度はなんですか?」
「旧版の光量子チップの在庫をすべてメーカーから引き取り、データセンタを増強する。そして、アルゴリズムの改良と合わせると、2人分を同時起動できるようになる。その作業が1週間かかるからだ」
「2人同時起動できると何かいいのですか?」
「今までは、我々が交代で対応していたし、教師を用意する必要があった。しかし、神木君が新しい脳モデルのサポートもできるし、教師もできる。すると、神木君は寝ないので、24時間対応が可能だ。問題がなかったか等の報告を神木君から受ければいい」
「ブラックな感じですね… 千秋先生は神木さんを信用しているのですね」
「信用しているよ。私は1時間ほど神木君と話をしたからな」
「そうなんですか? 何の話をしたのですか?」
「神木君が疑問に思っていることや、私が疑問に思っていることだな」
「具体的には?」
「神木君からは、死んでからの経過時間や仮想環境や脳モデルについてだ」
「千秋先生は神木さんにした質問は何ですか?」
「私か? 神木公人として記憶していることは何か?だな」
「神木さんは何と答えたのですか?」
「神木公人として記憶していることは、救急救命士に関係することと明日香という子に関することだけらしい。それ以外のコンピュータに関する知識はないに近く、かなり偏っている」
「え! じゃ、達也さんが別の質問をしていたら神木さんと思わなかったということですか?」
「そうかもしれない。神木君と話して一つの結論に至った。それは、詩織を起こす時に神木君が考えていたことのみではないか?ということだ。詩織を起こすことは救急救命士の仕事なのでこれは、自然と考えられる。問題は明日香という子の記憶だ」
「そうですよね」
「だから、私も神木君にいろいろ質問したところ、詩織がベットで寝ていることで、明日香という子の看病を想像したらしい」
「ベッドで寝ていることなんて普通では?」
「そうではないらしい。救急救命士は野外での活動になるから、ベッドなどない」
「なるほど… 辻褄は合っているのですね。私の中に記憶が入るというオカルト的な要素を除けば…」
「それは、まだわからん」
私の中に神木さんの記憶?が残ったから、神木さんの人格ができたのであれば、他に人格はできるんだろうか?
「…千秋先生は、神木さん以外の人格ができると思っているのですか?」
「やってみないとわからない。神木君が覚醒?したデータで脳モデルで起動したら、同じように神木君となるのか否かは早急に確認しなければならない」
「そうですね。違う人格ができるとしたら私の脳内会議のメンバですかね?」
「そうかもしれないし、教育すれば人格を持つかもしれない。実験が足りなさすぎるので、わからない。もしかしたら、香織っぽいのができるかもしれないし、沙織っぽいのができるかもしれない」
香織お姉ちゃんぽいもの? 香織お姉ちゃんじゃないんだ…
私の脳モデルは詩織って呼んだよね? 神木さんの時も神木君って呼んでるよね?
千秋先生の中では、何が違うんだろう…
「あのぅ。千秋先生、私や神木さんのときは『ぽいもの』って付けなかったのに、香織お姉ちゃんと沙織お姉ちゃんの場合は、『ぽいもの』って付けましたよね? 何か違いがあるのですか?」
「なんとなくだな」
「千秋先生が、なんとなく?」
「詩織の場合は、高性能MRIのデータで作ったので詩織そのものだと思った。今後、それぞれが成長すると違うようになると思うが… 神木君はオリジナルの実体が亡くなっていることもあるが、詩織が神木君の記憶を持っていたからだ。香織、沙織は違うだろ?」
「そうですね。香織お姉ちゃんと、沙織お姉ちゃんはそれぞれとの共通の記憶しかないですね。でも、神木さんより香織お姉ちゃんと沙織お姉ちゃんの記憶の方が多いですよ」
「だから、なんとなくなんだ。まだ実験が少なすぎる」




