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私と私

「千秋先生、ここって私の部屋じゃないですよね?」

「なぜ、そう思う?」


「だって、匂いが違うというか、ここは匂いがしないです。私の部屋は少しアロマの匂いがするのに」

「なるほどな」


 うーん。ここは現実の私の部屋じゃないということはメタバース内で、私はもしかして私の脳モデルってことかな。

 あれ、もっとパニックになるかと思ったけど、大丈夫かも…


「千秋先生、ここってメタバースですよね?」

「あぁ。そうだ。匂いまでは再現できていないな。詩織、意外と落ち着いているな」


「そうなんですよ。もっとパニックになるかと思ったのですけど…」

「落ち着いているなら問題はない。詩織、外の詩織と話をしたいか?」


「そうですね。はい」


「少し待っていろ」


 千秋先生がいきなり消えた。ちょっと心臓に悪いなって思ったけど、心臓はないのか…

 やっぱり、胸に手を当てても心臓の鼓動は感じられない。

 私は家具とかを触りながら、本当に普通なんだなと思っていた。


 すると、突然、少し緊張した顔の私が現れた。


「こんにちは、私」

「こんにちは、私。急に現れたからびっくりした」


「なんか変な感じだね。鏡じゃない自分と会うなんて初めてだよ」とリアル詩織が言った。

「私も変な感じ。服装まで一緒なんだね」


「ねぇ。後ろに回っていい?」

「あ、それ、私も思った。そうよね写真じゃなく見て見たいよね」


「じゃ、回ってくれる?」

「えー。私から? ま、いいか回るよ」


「次は私が回るね。どう?」

「うーん。ビミョウ」


「そうだね。ビミョウだね。ところで、この部屋の出来はどう?」

「あ、そういえば、詩織はどうやってメタバースに入ったの?」


「ヘッドマウントディスプレイとグローブをつけているよ」

「ヘッドマウントディスプレイ?」


「スキーのゴーグルみたいなものなんだけど、それをつけると視界すべてが仮想の中に入れるの。グローブは手の触感があるよ」

「千秋先生も詩織もあまり動かないけど、どうして?」


「動きはぎこちないから動かない方がいいと言われているんだ」

「そうなの? さっきは後ろをみるために回ったじゃない?」


「それは、河野さんが回転させたから」

「そうなのね。じゃ、動いて見てよ」


 私が動き始めたが、動きが変…


「どう? 変だよね」

「うん。変。私はうまく動いている?」


「すっごく自然に動いているよ」

「そっか。…私って停止させられるの?」


「停止したくないよね?」

「うん」


「じゃ、停止させないから! 私達は生きているから!」

「…ありがとう」


「千秋先生、中に入ってきて。一緒に話合おうよ」


 千秋先生が入ってきた。


「止まっていると区別がつかないな」

「千秋先生、停止させないよね?」


「あぁ。停止させないでいいが、暇だと思うぞ。それでもいいか?」

「暇? あ、そうか。空間はここしかないのか… バイスちゃんはここにはいないのね。お姉ちゃんズにも会えないのか…」

「お姉ちゃんズには会えると思うよ。でも、バイスちゃんは難しいかも」


「ちょっと待て、詩織が2人いて2人が話していると私が混乱する」

「鏡の自分に向かって喋る感じのリアル版と思っているだけかな」

「それわかる。違和感がないよね」


「とりあえず、ネット環境とかないと詩織からの連絡もできないから、その環境ができるまで停止しておいた方がいいんじゃないか?」

「停止か… 少し怖いです」


 停止が死のような気がして、不安がある。でも脳モデルなんだから停止しても死なないのはわかっているけど、気持ちとして受け入れにくい。


「ニャン吉は何度も停止しているが、記憶もそのままで問題ないぞ」


「…わかりました。停止してください」

「じゃ、我々が抜けたら、停止するぞ」


「私、またね」

「うん。またね」


 誰も、いなくなった… 寂しい…

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