目覚め2
分析室に河野さんと一緒に向かった。分析室には千秋先生と橋田さんが端末を操作していた。
「千秋先生、橋田さん。おはようございます」
「おはよう、詩織。仮想空間はどうだった?」
「仮想空間はすごかったですけど、触感がちょっとですね」
「それは、グローブの問題だな。体表面には1万ほどの触覚を設定しているから、完全なリアルとはいかないが、相当再現度は高いはずだ」
「脳モデルとメタバースとの接続はどうなんですか?」
「ばっちりなはず… ですよね? 千秋さん」
「こればっかりはやってみないとわからない部分が多いな」
「そうですか、じゃ、実験ですねと言いたいところなんですけど、私の脳モデルが起きた時、どういう状態ですか?」
「立った状態で一人だが…」
「ベッドで寝ている状態から始めることはできますか? それに、千秋先生もメタバースに入っていて、私の脳モデルに状況を説明する必要があると思います」
「詩織がそういうなら、その状況が安心するということだな。わかった。橋田、詩織の初期位置を変更してくれ」
「わかりました」
「あ、それにメガネをベットサイドに置いてください」
「メタバース内では視力は正視だぞ」
「生視ってなんですか?」
「近視でも遠視でも乱視でもないということだ」
「でも、私が起きた時はメガネをかけるんです。これは、ルーティーンというより儀式みたいになっていますから」
「そうか… 明人君、メガネを設置できるか?」
「はい、もちろん」
「じゃ、準備できしだい試験をするぞ」
設定の準備が完了し、千秋先生はヘッドマウントディスプレイとグローブを装着し、「起動しろ」と言った。
ここどこ? 私、何してたっけ? MRIの試験をしていたような気がするけど、私の部屋だよね?
メガネをかけないと… !?なんか動きが変! 何これ?
「…詩織、…詩織、聞こえるか?」
答えないといけないと思うが、口がうまく動かせないし、体の動きもおかしい。
もそもそしてると、なんとなくどう動かすのかがわかってきて、なんとか動けるようになってきた。
「…ち …あ …き せん せい。うまくうごきま せん」
「私の声が聞こえているようだな。大丈夫だゆっくり動かしてみなさい」
「…はい」
私は顔を動かし、千秋先生を見る。千秋先生がいるけど、白衣? 私の家に来るのに白衣って不思議…
メガネをつけるために、手を伸ばしたいが手が重い。ゆっくり体を横向きに変え、なんとか手を伸ばして、メガネを触ったが、感触が違う。
「なんか手の感覚が違う… メガネが取りにくいなぁ。自分の手じゃないみたい…」
どうして、千秋先生は手伝ってくれないんだろう…
少しずつだが、動くようになってきた。
やっとの思いで、私はベットに座った。座ると自分の服装がパジャマじゃない… あれ? 私、服のままベットに入った?
「はぁ… 千秋先生、体がうまく動かせないし、千秋先生の声も変に聞こえるんですけど…」
「そうだろうな。慣れるしかないな。詩織、深呼吸しなさい」
私は深呼吸をした。
「よし、ここはどこかわかるか?」
「私の部屋?ですよね? 少し変ですが…」
「どこが変だ?」
「うーん。私の感覚がおかしいからか、家具が違うように思えます」
「…少しずつ動作が良くなってきているな。足に力が入るか? 力が入るなら、ゆっくり立ち上がりなさい」
「はい」
足を床につけた。うーん踏ん張りが効かない? 足を少し上げてから床につけるを繰り返した。
じょじょに感覚がわかってきた。
千秋先生がだまって見ているということは何か状況を知っているんだろうなぁ。
私はゆっくり立ちあがろうとしたが、ベッドにまた座ってしまった。
「あわてる必要はない。ゆっくりでいいから、もう一度試しなさい」
「はい」
私はもう一度、足で床を確かめて、踏ん張り、なんとか立ち上がることができた。
「じゃ、次は歩いてみろ」
「はい」
だんだん慣れてきたので苦労せずに歩けた。
やっと量子コンピュータでの詩織の目覚めです。




