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ロケットの接近

 千秋:「不鮮明なロケットのように見えるが… これがどうした?」

 河野:「千織ちゃんが見ていると思われるものです。千織ちゃんの脳が活性化している部分から認識している画像を再構成しました」


 詩織:「はい? そんなことができるのですか?」

 河野:「ある程度はできます。画像を見せて反応する場所を調べていくと、エッジを判断している部分や丸や三角などの形を判断している部分、三角や丸などの位置というか配置を判断する部分がわかってきました」


 詩織:「脳のどこで画像を判断しているかがわかっただけでしょ? 元の画像なんてわからないでしょ?」

 河野:「画像と脳の反応する場所がわかれば、脳の反応から画像を推論をするニューラルネットを作れば見ているものがわかるということです」


 詩織:「それって、私たちの人工脳モデルでデータを取ったのですか? 河野さん、私の脳も見ていないでしょうね」

 河野:「見てないです! 見ていません。私が見たものを常時見ているものをニューラルネットの学習に使っています。だから詩織さんの脳は見ていないです」


 詩織:「…ふーん。なら、いいわ。でも、河野さんの人工脳モデルで教育したニューラルネットで千織の見ている画像がわかるのね…」

 河野:「脳のどこでどのような処理を行うかはかなり一致しているのですよ」


 千秋:「明人君、話を戻せ。これはロケットだな?」

 河野:「はい。ロケットと思います。仮想空間内の方向と現実の方向がわからないのですが…」


 千秋:「千織は、現実に見えていないものが見えていると認識しているということか… それはそれで興味深いが、ロケットが来ているかどうか探索しろ」

 河野:「探索の指示はしていますので、しばらくお待ちください」


 千秋:「幻視の一種か?」

 詩織:「幻視?」


 千秋:「実際には存在しない視覚的な像が見える現象だな」

 詩織:「ふーん…」


 河野:「千秋さん、ロケットが来ています」

 千秋:「距離は?」


 河野:「50万キロです」

 詩織:「50万キロ? ってどのくらいの距離ですか?」


 河野:「地球と月の距離よりちょっと長いです」

 詩織:「じゃ、まだまだ先ですね」


 千秋:「速度による。減速しているか?」

 河野:「いいえ、減速していません」


 千秋:「接触するか?」

 河野:「1万キロほど外れていますので、放置でもいいですが…」


 千秋:「詩織、通信するか?」

 詩織:「減速していないということは交渉する気がないということでしょうか?」


 千秋:「さぁな」

 詩織:「とりあえず、所属とここに来ているを聞きますか?」


 千秋:「そうだな。プロトコルがあるかもしれんから、アンジェに依頼する」

 詩織:「そうですね。お願いします」

 千秋先生がアンジェと通話して未確認のロケットに通信を送ってくれた。


 河野:「撃墜できるようにレールガンの準備します」

 千秋:「そうだな。準備は重要だ」

 河野さんが、消えた。


 詩織:「慌ただしいですね。まだまだ遠いですよね? 時間はあると思いますけど…」

 千秋:「速度が速ければすぐだな… データを見ると10時間ほどで到着だな」


 詩織:「50万キロを10時間ですか… 速いと思いますけど…」

 千秋:「速いと思うか、遅いと思うかは尺度の違いだな。それより、千織がいなければ気づくのが遅れた可能性がある」


 詩織:「そうですね。今後の警戒の計画を立てる必要がありますね」

 千秋:「撃墜するかどうかを判断のデッドラインがあるので、応答の状況でどうするかを考えておけ」


 詩織:「わかりました…」

 私が撃墜するかどうかを考えるのか… 人が乗っていたら…


 詩織:「千秋先生、人が乗っている可能性はあるのでしょうか?」

 千秋:「明人君に調査させよう」


 詩織:「お願いします」

 千秋先生が河野さんに連絡するためか、消えた。

 あっ。千織! 千織から目を離していた! と思って千織を見ると、千織は私を見ていた。

 ん? 千織が容姿より大人びた感じがする?


 詩織:「ちおり、小太郎と遊ぼうかー」

 千織:「いい。お部屋に帰る」


 詩織:「そう?」

 私は千織を抱き上げて、琥珀に部屋に転送してもらった。

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