詩織の脳モデル完成
私の脳モデルは取得データを上書きする方法で作成されていたそうだ。2週間も試験を実施したが、最後の2日分はほぼ上書きするデータがなかったそうだ。
最後のほうはケーキじゃなく、虎屋の羊羹とか渋いラインナップもよかったからもう少し続けても良かったけど…
分析室で、私の脳モデルをメタバースで動かしたが、最初の10分ぐらいはほぼ活動がなく、次の10分はものすごい勢いで処理を実行し、活動が停止したらしい。
これには再現性があるらしい。
そこで、対策会議を開くらしく、呼ばれた…
「千秋先生、こんにちは」
「詩織、待っていたよ。橋田君、詩織に見せてやってくれ」
「わかりました」
橋田さんが端末を操作し、見せてくれた。
やはり、活動が停止する。
「どう思う?」
「どうって、わからないですよ」
「脳モデルは詩織だから、詩織が一番わかると思うんだ」
「詩織は目覚めた時、まず何をする?」
「メガネをかけます。洗面所は歯を磨きます。着替えて朝食ですね」
「ふーむ」
「それができないとどうなる?」
「できない? 何も? 手も動かせない?」
私は状況を想像してみた」
「…そりゃパニックになりますね」
「…わかった。パニックね。 なるほど、詩織ならそうなるか… 詩織の脳モデルはパニックになっているな」
橋田さんが疑問を口にした。
「今までの脳モデルはピクピクとしか動きませんでしたが、パニックにはなっていないと思いますよ」
「それは、脳モデルが赤ちゃんと同じく、何も知らないからだ。見えないとか手足が動かなくても、最初から動くことを知らないからパニックになりようがない。しかし、詩織の脳モデルは頭を動かしたり手を動かすことは当たり前なのに、それができないからパニックになったんだろう」
「じゃ、詩織さんの脳モデルを正常に動作させるには、手も足も眼も口も人間と同じように動かせる環境が必要ということですか?」
「そうだな、5感すべての再現と、周りの空間も現実にする必要があるな。すくなくとも目覚めさせる場所は詩織の部屋がいいだろうな。しかも質感まで再現する必要がある。そして、落ち着いた状態で現状説明をすれば、なんとかパニックは抑えられるだろうな」
「質感まで? そこまでしなくても問題ないのでは?」
「橋田は詩織を知らないからな。こだわりはすごいぞ。違うと怒る!」
「千秋先生、それって私が小さい時ですよね? 今は大丈夫ですよ」
「じゃ、そこのソファで寝れるか?」
「無理です」
「な、橋田、こいつは超お嬢さんなんだよ」
「千秋先生の方がお嬢さんじゃないですか?」
「私はそのソファで寝れるぞ」
「えー。だって、誰が入ってくるかわからないじゃないですかぁ。それに寝心地悪そうだし」
橋田さんが、びっくりした顔で、「千秋さんがお嬢さん…」と呟いた。
私は携帯を操作し、写真を橋田さんに見せた。
「橋田さん、千秋先生の小さいときの写真を見ます? すごいですから」
「えーーー! これが千秋さん? このフリフリのお人形みたいなのが!?」
「詩織がなぜ私の写真を持っている!」
「カンナさんにもらいました」
「カンナか… 橋田、忘れろ」
「千秋さんの服の趣味ってフリフリのお人形ファッションなんですねぇ」
「それは、着せられていただけだ。あぁ! やめろ。橋田、メタバースで五感を再現しろ。早急だ。リアルな部屋の再現、物理計算はアンドレにさせる」
千秋先生は、部屋から出て行った。
「橋田さん、大丈夫ですか?」
「え? 大丈夫ですよ?」
「橋田さん、まったくわかってないですね。千秋先生の報復がありますよ。頑張ってくださいね」
「報復?」
「そうです。私は千秋先生の報復は怖いですよ。的確に弱い部分を責めます」
「詩織さんにも報復があるんですか?」
「私にはないと思いますよ。だって、物心つく前からの私のお姉ちゃんでしたから、どのあたりまで言っても問題ないか心得ていますよ」
「…どうすれば報復を回避できますか?」
「そうですねぇ。橋田さんの場合、仕事で挽回するしかないですね。メタバースで五感を再現しろと言われていたので、完璧に仕上げるしかないですね」
「頑張ります…」




