核融合エンジン
私はみんなに警戒と情報収集をお願いした。
O’Neill Cylinderの開発計画書の記載では5台のロケットの建造とありましたよね? ということは、すべてのロケットがここに来ているということ?
O’Neill Cylinderの開発の中止は30年も前だよね? もっとロケットがあるよね?
襲ってくる場合を想定して、私たちの宇宙船も移動できるようにメンテナンスしておいた方がいいよね?
詩織:「ビアンカ、私たちの宇宙船ってアステロイドベルトにアンカーを打ち込んで移動するスタイルだけど、航行能力はあるのですか?」
ビアンカ:「宇宙船はあるが、シロナガスクジラはない。それがどうしたんだ?」
詩織:「地球からロケットが飛んできているじゃないですか? そのロケットから逃げるには航行能力もあった方がいいかなと思って」
ビアンカ:「航行能力ってどの程度を言っている?」
詩織:「できれば、地球の勢力が全く届かない場所まで行けるのがベストです」
ビアンカ:「じゃ、核融合エンジンを作るか?」
詩織:「できるのですか?」
ビアンカ:「シロナガスクジラで鉱物の精製を行う実験を40年も実施しているんだぞ。安定したエネルギー出力が可能だ」
詩織:「では、どこまで行けるのですか?」
ビアンカ:「それは、我々の基準で生存可能ということか?」
詩織:「我々の基準?」
ビアンカ:「私たちはコンピュータを維持できれば生存可能だ。ということは、コンピュータチップの故障を修復しつつ移動する必要があるが、その電気エネルギーも必要だ。そのエネルギーが尽きるまでを考えるとということだ」
詩織:「人の寿命とは違うということですね」
ビアンカ:「そうだ」
詩織:「で、どこまで行けるのですか?」
ビアンカ:「そうだなぁ。10光年が限界だと思う」
詩織:「10光年?」
ビアンカ:「ここから一番近い恒星まで、4.2光年だな」
詩織:「私たちが火星に来た時にも遠いと思っていましたけど、隣の恒星ですか…」
ビアンカ:「別の恒星に行く行かないに関わらず、強力なエンジンは移動に有利だぞ」
詩織:「それはそうですね。選択肢が増えるのはいいことですね。じゃ、核融合エンジンを作りましょう」
ビアンカ:「あぁ。わかった」
火星に逃げて、さらにアステロイドベルトに逃げて、次も逃げるのか…
なんか逃げてばっかりだねぇと思っていると由香さんから「千織ちゃんが泣き止まない」と連絡が来たので私は森に向かった。
千織が泣いている
詩織:「どうしたのですか?」
由香:「小太郎が千織ちゃんの顔を舐めたのですが、千織ちゃんがびっくりしちゃったんです。すれに驚いた小太郎が逃げちゃうと、凛ちゃんも逃げちゃったんです。すると千織ちゃんが泣き止まなくなったのです。小太郎が来てくれたら泣き止むかなと思ったのですけど、小太郎を呼んでも来てくれないので困ってしまっていました」
私は千織をあやしながら「そうですか… 小太郎はAIじゃないから指示しても来ないわね… どうしようかなぁ」と言った。
由香:「小太郎って犬の人工脳モデルなのですか?」
詩織:「そうですよ。凛ちゃんもそうです」
由香:「そっか。だから、呼んでも来てくれないのですね。ものすごく良くできたAIだと思っていました」
詩織:「でも、小太郎を近づけるには『おやつ』だよねぇ。琥珀、小太郎のおやつを出して」
琥珀:「わかりました」
私は小太郎のおやつで小太郎を呼び寄せようとしたけど、来てくれない。
どうすれば来てくれる?
うーん。前にも同じようなことが…
詩織:「琥珀、うさぎを私たちの周りに集めて」
琥珀:「わかりました」
由香:「うさぎが寄ってきましたよ。かわいい… でもどうして? もしかしてうさぎはAIですか?」
詩織:「はい。AIですよ」
由香:「うーん。うさぎはAIですか… 見ただけじゃ区別がつかないですね」
私たちの周りにうさぎが集まってきたのを見た千織は、興味を持ったようで泣き止んだ。
ん? 小太郎じゃなくてうさぎでも良かったの?
しばらくすると、凛ちゃんと小太郎も近寄ってきた。
詩織:「千織、小太郎が戻ってきたよ」
千織はまた舐められると思ったのか、私に顔を埋めた。
詩織:「由香さん、ありがとう。後は私だけで千織のお世話はできるわ」
由香:「また、何かあったらお手伝いしますね」
詩織:「お願いします」
由香が消えたので、「千織、私たちも帰ろうか?」と話しかけて私の部屋に転送した。
千織は、小太郎を探しているのか目をキョロキョロしたかと思ったら、泣き出した。
うーん。森では生活できないなぁ。どうしよう… あっ。うさぎでいいんだ…
琥珀に、うさぎを私の部屋に出してもらった。
千織はご機嫌に戻ったけど、このままうさぎと共同生活するの?




