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詩織の赤ちゃん

 詩織:「赤ちゃんを知らないのですか?」

 河野:「し、し、しっていますよ」


 千秋:「何を騒いている? 迷惑だ」

 河野:「すみません。でも詩織さんが、とんでもないことを言うので…」


 千秋:「詩織、何を言ったんだ?」

 詩織:「河野さんが仮想環境には通常の生活と全く同じ感覚があることはいいというから、欲しいものを言っただけだけど…」


 千秋:「それはなんだ?」

 詩織:「赤ちゃんです」


 千秋:「育てたいということか?」

 詩織:「そうです。今ならリソースも十分でしょ?」


 千秋:「ルナがニャン吉を育てたように、仮想環境で育てるということか?」

 詩織:「そうです」


 千秋:「詩織が育てるのか? 育てたことはないだろ?」

 詩織:「誰でも最初はあるでしょ?」


 千秋:「そうだな… もしかして、詩織は暇を持て余しているのか?」

 詩織:「…」


 千秋:「詩織が放り出さないなら、許可するが、成長できる人工脳モデルを考える必要があるのでちょっと待て」

 詩織:「わかりました」


 千秋:「で、明人君。君は何を慌てていたんだ?」

 河野:「だって、赤ちゃんが欲しいと言われたらびっくりしますよ」


 千秋:「はぁ。ここは仮想環境だぞ?」

 詩織:「河野さんはHなことを考えていたのですか?」


 河野:「そうじゃないですけど、急に『赤ちゃんがほしい』と言われたらうろたえるものです」

 詩織:「ま、そういうことにしておきましょう。赤ちゃんは男の子がいいかなぁ。女の子がいいかなぁ。ミルク、おむつが必要よね」


 千秋:「ミルクはお腹が空く設定が入るので可能だが、排泄はしないからおむつは不要だぞ」

 詩織:「あっ。そうですね… おむつの交換のイベントはないのか… どうにかなりませんか?」


 千秋:「成長までにしてくれ、それ以上は面倒すぎる」

 詩織:「仕方がないですね… 千秋先生、赤ちゃんは眠りますか?」


 千秋:「さぁな。睡眠はよくわかっていないから眠るかどうかはわからん」

 詩織:「育ててみたらわかりますよね?」


 千秋:「あぁ。準備ができたら教えるから待て」

 詩織:「わかりました」


 私は自分の部屋に転送して、それから色々準備を始める。


 私は赤ちゃんのために哺乳瓶を用意しなきゃ。ミルクを作る手順を調べると… 消毒? 仮想環境じゃいらないわよね… 細かく色々と違ってくるけど、仕方がないよね…


 ガラガラも用意しなきゃね。私はウキウキしながら準備をする。幸せかも…


 そういえば、最初の頃も子供達がいたから私は仮想環境で生活できたのかも…

 仮想環境といえども子供は必要なのかもしれない…


 私は自分の部屋に赤ちゃんエリアを作った。うーん。肌着の柔らかさ、タオルの肌触りと吸水を調整した。一番の問題はガラガラだ。音が気に入らないので何度も調整を行った。


 私は1週間で準備を整えると、千秋先生が赤ちゃんの準備ができたと連絡が来たので私の部屋に招待した。


 千秋:「詩織の部屋は様変わりだな」

 詩織:「はい。赤ちゃん仕様です」


 千秋:「詩織、赤ちゃんは成長に合わせて身体の変更が必要だ。それは琥珀に設定している。だから、琥珀を常時出しておけ。問題があったら琥珀には私を呼び出すように指示をしている」

 詩織:「わかりました。で、赤ちゃんはどこですか? 千秋先生は手ぶらですけど…」


 千秋:「これから出すに決まっているじゃないか?」

 詩織:「なるほど、ではベビーベッドに出してください」


 千秋:「あぁ。わかった。琥珀、赤ちゃんを出してくれ」

 ベビーベッドに赤ちゃんが急に現れた。音も光のイベントもないけど、私はすごく感動していた。そして恐る恐る人差し指で赤ちゃんの手を触ったら、指を握ってゆっくり目を開けた。

 私は小声で、「千秋先生、私の指を握りましたよ! 超ちっちゃい! かわいい!」

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