アステロイドベルトの防御
詩織:「意外とコンピュータは変わっていないのですね」
河野:「そうですね。私たちが全く歯が立たない感じに進化していると思ったのですけど…」
詩織:「コンピュータの進歩が不要だったとういことでしょうか?」
河野:「さぁ。OSのコマンドは変更が不要だったということかもしれません」
詩織:「そういえば、私たちはコマンド操作していませんよね? どうなっているのですか?」
河野:「アルジャーノンのメンテナンス用のコマンドは残っていると思いますが、旧来のようなOSはないです」
詩織:「OSがないとコンピュータは動かないって習ったような気がします」
河野:「OSがなくてもコンピュータは動きますよ」
詩織:「うーん。画面を表示したり作業をしていると思いますけど… これってアプリケーションを選択しているのでOSがあるのでは?」
河野:「私たちが画面を表示はオブジェクトを表示しているのです。私たちやアルジャーノンもオブジェクトですし、仮想空間もオブジェクトです。オブジェクトを制御しているものをOSといえばOSはあると言えますけど、旧来のOSとは違います」
詩織:「はい? それで画面表示とかできるのですね」
河野:「実際にできていますから… 詩織さんは気づいていないかもしれないですけど、アステロイドベルトは10の空間に分かれているのですよ。それぞれに仮想空間があります。これが管理画面です。リスト表示だとわかりにくいので、グラフィカル表示に切り替えます」
河野さんが見せてくれた管理画面のリストから10個の大きな四角の中に大小丸が表示されている。その丸が近づいたり、大きさが変化したりしている。
河野:「この四角がアステロイドベルトにある空間ですけど、サーバだと思ってください。その中の丸がオブジェクトです。赤丸が人工脳モデルで、青丸がアルジャーノンで、緑が仮想環境です」
詩織:「あ、青丸が増えた」
河野:「アルジャーノンが仕事を依頼されたので分身を作ったようですね。このオブジェクトは隣の四角に入ることもあります。分散処理しているし、サーバメンテナンスの場合は別のサーバに移ってもらいます。これが、真のオブジェクト指向です」
詩織:「オブジェクト指向? コンピュータの授業で習いました」
河野:「学校で習うオブジェクト指向とここで動かしている真のオブジェクト指向とは違いますよ。あれは偽物ですよ。アラン・ケイの思想とは違います」
私は河野さんの話が長くなりそうなので、「丸が近づいたり、離れたりしているのはどうしてですか?」と言って話を変えた。
河野:「あの赤い丸は詩織さんと私です。ここで話をしているので情報交換が多いので近くなるように表現しています」
詩織:「へぇ。面白いですね。あっ。あの黒い丸はなんですか?」
河野:「あれは管理オブジェクトです。免疫細胞? 警察官? うーんごみ収集もするしなぁ。なんだろう…」
詩織:「なんとなくイメージはわかりました。私たちが宇宙ステーションをハッキングしているように、私たちもハッキングを受けたらどうなるのですか?」
河野:「ネットワークの入り口での検閲があるので問題ないです」
詩織:「じゃ、アンジェたちがやっているみたいにケーブルから入られたら?」
河野:「光通信だし、通信はオブジェクト同士の通信だからハッキングはできないと思うけど… もし、中に入られてもオブジェクトを作れないのでどうにもできないよ。入っても管理オブジェクトに排除されるよ」
詩織:「じゃ、安全なのね」
河野:「完璧は存在しないので、気づいていない裏道はあるかもしれないです…」
詩織:「そうですね。美織たちが入ろうとするかもしれないので、対策をした方がいいですよね」
河野:「美織たちはこちらへの侵入はしようとしていましたよ」
詩織:「そうなのですか?」
河野:「いろんなプロトコルでアクセスをしていたので、何をしているのかを問合せをしました。そうしたら、『こちらを呼び出したかったから』と言い訳をしていましたけど明らかに侵入をこころみていたと思います」
詩織:「そうですか… でも美織たちが裏道を見つけるかもしれないので、監視を強化した方がいいのではないですか?」
河野:「そうですね。管理オブジェクトを強化します」




