諜報活動の準備
ロケットを送り出しても、アステロイドベルトの開発は続けている。
ウランは手持ちが少ないと言っていたが、実は200年分を採集済みだ。それにトリウムも300年分も採集済みだ。
コンピュータの光化を行ったことで、電力の使用量も少なくなっているので緊急度は全くない。
だが、美織たちに採集が必要と思わせるためにもアステロイドベルトの開発は続けている。
ま、開発してもしなくても手間が同じだから続けているということもあるけど…
私たちには時間も電力もあるので、効率の良いカーボンナノチューブを利用した超伝導の強力な磁石の開発を行っている。
超強力な電磁石はレールガンやモーターに利用するだけでなく、核融合にも利用している。
地球の開発状況はわからないけど、アステロイドベルトの科学は進歩をしていると思う。なぜなら、材料は周りにあるし、人工脳モデルには寿命はないので、じっくり研究に没頭できるからだ。人より制約が少ないのだ。
制約が少なくなると、研究が進まなくなると千秋先生が懸念していたが、研究者が主体の私たちには無縁だったようで、好き勝手に研究をしている。
生きている時間を考えると子供達というのも変だけど、子供達もレーザーでの電力供給やカーボンナノチューブの人工筋肉の強化などの研究を行っている。
宇宙では役に立たない人型を作ったりするのがちょっと困りものだ。その実験も直径10Mほどの小さい円筒のO’Neill Cylinderの重力空間で動かすことまでする。
人が生活するものではないので、空気は入れないから構築の手間だけだ。
手間といってもアルジャーノンが作るので、レクリエーション設備と考えれば安いものだ。
体のサイズが自分とは違うからか、物を取ったりする動作は距離感が違うので、最初は戸惑うがすぐに慣れる。
歩く動作もすぐに動けるようになる。でも、同じ筐体で骨格も同じなのに男性と女性で動きに差がでるのが不思議だ。
さらに不思議なのが、子供達は歩くのに私たちより手間取るだけでなく、男女で動きに差はほとんどなかった。
千秋先生は人型を動かす時の子供達と私たちの脳の動きを解析していたけど、分析結果は教えてくれていない。
仮想空間の森で体を動かすより、人型の方が体を動かした気がするのはどうしてなんだろう?
物理的な体は何か脳に影響があるのだろうか…
半世紀以上、人工脳モデルを利用しているのに、まだ謎が残っているのは不思議…
たいしたイベントがないまま、衛星の切り離しを行う。衛星はレーザー推進ができる機能を設定しており、位置の変更や姿勢制御などはこちらから発生するレーザーのエネルギーで可能だ。
どうせレーザー通信するのだから、レーザーを当てることなんて朝飯前ということらしい。
切り離す衛星は2つで、太陽の位置に関係なく地球の情報が取れることになる。
最大の問題はハエトリグモ改が見つからずに運用できるかどうかだけだ。
2台の衛星は問題なく分離した。おそらく誰にも気づかれていないだろう。
ロケットは地球には滞在しない。ウラン貨物は月と地球の重力を利用して減速させる。
ウラン貨物は月と地球の重力で減速を行い、最後は推進剤を噴射して減速を行い、地球のO’Neill Cylinderの一部と同化した。
今回のロケットの重量の半分がこの推進剤なので、効率が悪すぎる…
私は美織にウランが地球のO’Neill Cylinderに到着したことを知らせたら、感謝の返信が来た。
何か会話があるかと思ったが、それだけだ…
ハエトリグモ改も減速する必要がある。しかし、ハエトリグモ改はウランと同じ進路だとバレるため別進路を取る必要があるが、最も良い減速ルートはウラン貨物が利用する。しかも、ハエトリグモ改は推進剤を持っていないので非常に不利だが、もちろん策はある。
ロケットが月に接近した際にハエトリグモ改を切り離す。そのため、速度が非常に速い。ハエトリグモ改は月にアンカーを打ち込んだ。そして、アンカーに接続されているカーボンナノチューブ製の極細で10Kmもあるワイヤーを出す抵抗を調整するが、一気に5Kmのワイヤーが放出された。その後もワイヤーの抵抗を調整してワイヤーが全て出尽くしたところでアンカーを外すと地球に放り出される。
地球では地球重力で速度を低下させるだけでなく、ワイヤーが大気の摩擦をうけることにより速度を落とす。人が乗っていないからできる荒技だ。
こんなことをして地球に接近するとは誰も思っていないだろう。
ハエトリグモ改は見つからずに地球のO’Neill Cylinderに取り付けたはずだ。
しばらくすると、ハエトリグモ改から状況の通信が入った。
腕が1本破損して動かないそうだが、それ以外に問題はないとのことだった。
これから諜報活動の開始だね。




