ホルス その3
美織は難しい顔をして考え、上野さんを見た。すると、上野さんが口を開いた。
「アルジャーノンが嘘の情報を流したと思います」
「なぜアルジャーノンが嘘の情報を流す必要があるのですか?」
「すみません、そこまではわかりません」
「あの元気なおばあ様が亡くなるなんて考えられません」
え? 地球の私ってどんな感じなの? アンジェが亡くなったという話も嘘なの?
「あのう? アンジェはどうしていますか?」
「アンジェさんですか? どなたでしょう? 知っていますか?」と美織は上野さんを見た。
「アンジェさんは知っていますが、現在の状況は知りません」
「そうですか… はっきり言って、何を信用して良いかはわかりません」
「そうですよね」
「ホルスから逃げてきたと言いましたが、今聞いているところを見ると問題ないように思えます」
「少し長く、矛盾した話のように聞こえるかもしれませんが、聞いてください」
「わかりました」
「衰退した陣営は都市部がスラム化したことで地方に逃げ、そこで自治をしてもガソリンなどの資源が手に入らないため手作業で農業を行っていたようです。しかし、農業では肥料も潤沢ではないため、自治に失敗する場所がほとんどだったようです。そして、人が住まない地域が拡大していきました」
「なるほどね」
「ホルスは衰退した相手陣営の土地も収容していき、現在では事実上ほぼ地球を支配したと言えます」
「では、軍事も使ったということですか?」
「いえ、人の住まない荒廃した土地に太陽光パネルを配置したり、農地を作ったりすることで領域を拡大しただけです。軍事は使っていません。自治権をホルスに委ねる地区さえ現れました。そして、放棄されていた軍事設備を解体し、核弾頭も回収して原子力発電所に利用しました」
「ホルスはいいことしかしていないように見えますよ」
「そうなのです。ホルスが事実上すべて管理下におさめると、人類は発展すると思われていましたが、人口は減り続けいているのです」
「実はホルスが裏で人々を虐げていたとか?」
「いいえ、ホルスは世界の三箇所に人を集めてそれぞれ3億人程度に分けた管理し始めましたが、人は虐げられていません。自由に生活をさせています。そこでは新しい技術なども開発されましたが、宇宙開発や資源を多量に必要とする産業は資源不足を理由に制限をしました」
「ホルスはかなり合理的に運営をしているのね。空いた地域はどうしたのですか?」
「放置というか、自然に任せました」
「ホルスの運用は悪くないわね」
「ええ。そうですね。でも、おばあ様はホルス考えが何なのか?と調べていました」
「ホルスは人工脳モデルなんだから、考えていることなんてわからないでしょ?」
「ホルスは膨大なシミュレーションを実施して、運営方法を決定していました。おばあ様は却下した運営方法を調べて、ホルスの考え方というか人間性を見極めようとしていました」
「で、ホルスの考えはどうだったの?」
「ホルスは人を地球に負荷をかけすぎる存在と考えて人を排除しているようでした。ですが、文明は維持または発展させようとしていましたが、言論統制もありますし、研究内容の検閲もあります。そのため、ホルスは『人を飼っている』と考えているのではないかとなりました」
「人を飼う?」
「箱庭に住まわせて、出ないように管理するような感じです。箱庭から逃げるなら出ないように監視する感じです。例えば、火星への再進出も資源的にはなんとかなる状況でも、却下するようにです。おばあ様はホルスが完全に支配する前に私にアステロイドの詩織お いえ、詩織さんに会わせたかったようです」
うーん。ホルスの言論統制は良くないけど、資源が少ない場合にはある程度の行動制限は必要よね。完全に悪いとは言えないような気がする。
「美織が来た理由はわかったわ。でも、ホルスに関しては保留ね。質問なんだけど、あなた達は自分で宇宙船を操縦して自分たちでアステロイドベルトの小惑星を開拓?改造?をしたの?」
「私たちは冬眠していたので、操縦はアルジャーノンが行いました。それに、小惑星の開拓もアルジャーノンが実施しました」
「アルジャーノンはホルスの管理下ではなかったの?」
「いえ、私たちのアルジャーノンはホルスの管理下ではないと思います。ホルスの管理下のアルジャーノンは破壊しました」
「破壊? どうやって?」
「小惑星の基地の原子炉を暴走と、ロケットのコンピュータのリセットを同時に実行しました。小惑星の基地のコンピュータを停止させました。ここはリセットしたコンピュータで動作していますのでホルスの管理下ではありません」
貴重な資源を破壊してまで、ホルスを排除しなければならないの?
うーん。なんかスッキリしないわね…




