新型MIRI
橋田さんと話していると、千秋先生と河野さんが分析室のドアを乱暴に開けて入ってきた。
「橋田、アンドレに聞いたら詩織がここに… 詩織、新型のMRIを借りることができたんだが、実験台になってくれ」といきなり言った。
「実験台って危ないんですか?」
「いや。データの解析を私と河野がしなきゃならないから、実験台がいないんだ」
「危なくないならいいですよ」
「今回、借りれる時間が限られているので急いでくれ」といって千秋先生は私の手を取ってどんどん進んでいく。
放送室のような音漏れ防止のようなしっかり閉まるドアまで連れて行かれて、千秋先生はドアを開けた。
さらに、その奥もしっかり閉まるドアがあり、開ける。そこには、MRI装置があった。
「千秋先生、これが新型MRIですか?」と私はMRIの機器を指差した。
「詩織、違うぞ。こっちの椅子の機器が新型だ」とゲーミングチェアを指差した。
「これって、ゲーミングチェアじゃないですか?」
「イスはな。MRIはその隣の機器だよ」
これが新型のMRI? かなり小さくない? そのゲーミングチェアの隣の机にはケーブルに繋がれた機器がいくつも置いている。
「えー。なんか想像と違うんですけど。これが新型MRIですか?」
「あぁ。これが新型だ」
「あのうコンピュータとかないんですか?」
「コンピュータは磁場の影響を受けるし、磁場も出すから、ここには置けない。すべて、あっちのガラスの部屋の中にある。その設備のケーブルはすべてあっちの部屋の中と繋がっている」
「そういうことなんですね。それで、ちゃっちく見えるのですね」
「ちゃっちくね。ま、端子部分は確かにちゃっちいな」
「すみません。ちゃっちくて」とスピーカーから声が聞こえてきた。
「この新型はすごいんですから、言葉には気をつけてください」と河野さんの声がスピーカーから聞こえてきた。
「ごめんなさい。無知なので許してください」
「見た目なんて、どうでもいい。性能がよければ、なんでもいいじゃないか? 続けていいか?」
「はい」
「詩織、ここに座ってキャップをかぶって」と千秋先生は水泳の帽子にケーブルの束がくっついたものを渡してきた。
私は、髪型が崩れるっと思ったが、千秋先生が乗り気なので、抵抗は無駄なのでキャップをかぶった。
次にヘルメットのようなものを装着されたが、こちらもケーブルが付いているが、ケーブルが上から吊るさているのでそれほど重くない。
「本来は、スピンの向きを合わせやすくするため、薬剤を用いるが、今日は試験だからなしでデータ取りを行う」
「千秋先生、私はどうすればいいんですか?」
「とりあえず、座っていてくれ、こちらから指示する」というと他の人は隣の部屋に移動、ガラス越しにこちらを見ている。
「詩織、聞こえるか?」と千秋先生の声がスピーカーから流れてきた。
「はい。聞こえます」
「では、実験を開始する」
「はい」と答えたが、ちょっと不安…
何かうなり音が聞こえるが特になんともない。
「詩織、問題はないな?」
「はい」
「ディスプレイに映像がでるので、その映像のことを解説してくれ」
「はい」
「渡り鳥が7羽飛んでいます。V字型になったり、ほぼ一列になったりしています。雄大な自然のある風景が表示されました。日本じゃないですね。あ、あの山はハーフドームだから、ヨセミテ国立公園です。きゃー! ぎゃー! こんなの写さないでください! はぁはぁ」
あの黒い虫がカサカサと走る映像を見せるなんて!
「詩織、おちつけ。映像を止めた。次を表示するから続けていいか?」
「本当に次の画像でしょうね? あの画像は出さないでくださいよ」
「わかった。続けるぞ」
「はい」
私はまたあれが、出ないかをビビりながら画面を見ようとしたら、オーケストラの音楽が聞こえたので、安心して目を開けた。
「オーケストラでの演奏ですね。曲名は『ラプソディ・イン・ブルー』ですね。私この曲好きなんですよ」
といろいろ見せられていると、「立ち上がって」と突然文字が表示されたので、私は立ち上がる。
文字にしたがって、動作をしていると、今度は英語が表示され、それにしたがって動作。
すると、ドイツ語?で何やら指示しているようだが、わからない…
「これって、ドイツ語ですか? どうすればいいかわからないです」
私の言葉など、関係なかったかのように、試験が続く。
もう疲れたなぁと思っていると、スピーカーから千秋先生の「詩織、試験は終了だ」と流れてきて、千秋先生と河野さんが入ってきた。
「千秋先生、ちょっと質問です」
「なんだい?」
「始める時に本来は薬剤を用いると言っていたじゃないですか?」
「言ったよ」
「ということは、次回は薬剤を飲んでまた試験する必要があるんですか?」
「あぁ。その通りだ」
やっぱり、そうなのね…
「新型MRIの結果はどうだったのですか?」
「従来のMRIと比較するとデータ量は数万倍なので、すぐにはわからないよ」
「そうですか」




