不法侵入
火星では、中国の100名と思われる入植者が到着するので、私は中継?と言っても1時間遅れの映像を見ていた。
詩織:「千秋先生、あのロケットに100名も載っているのですか? 今までのロケットと同じ大きさのように見えますけど…」
千秋:「大きさは同じだな」
詩織:「前回までは4名でしたよね? まともに生活できないと思いますけど…」
千秋:「冬眠させているそうだ」
詩織:「冬眠ですか… そういえば、民間人が来た時も冬眠させていましたね。何ヶ月も移動では場所も生命維持の機械の観点から仕方がないかもしれませんね。どうして100名も必要なんですかね?」
千秋:「火星で繁殖するためじゃないか?」
詩織:「繁殖? 今は8名ですか? 男女がいれば子供で増えるのでは?」
千秋:「近親交配を避けることが難しい。その場合、劣性遺伝子が発現するリスクが急増する」
詩織:「どうして、100名なんですか?」
千秋:「Minimum Viable Populationは50名程度だな、Effective Population Sizeは500名以上と言われている」
詩織:「Minimum Viable PopulationとEffective Population Sizeって何が違うのですか?」
千秋:「Minimum Viable Populationは数世代なら問題ない。Effective Population Sizeは1000年以上問題ないことを示している」
詩織:「じゃ、100名って中途半端ですね」
千秋:「アメリカのレポートでは、全員を人工冬眠から起こすつもりはないのではないか?と記載されている」
詩織:「眠らせたままなのですか?」
千秋:「病気などで減った場合や、男女比が崩れた場合に補充する運用らしい」
詩織:「え? それって人が部品みたいじゃないですか?」
千秋:「火星ではまだ人類が安定して生活できるようにはなっていない。もし全員を起こせば、全滅も可能性がある。持続するには合理的と言える」
火星で生活するには仕方がないのかもしれないけど…
中国の入植が始まって1ヶ月が経過した時に、事件が起こった。
事件は、土地争いだ。
争いの土地はスピンローンチの事故で放射能汚染された土地だ。
そこに、中国から人が乗るローバーと無人のローバーが来て、柵を作り始めた。
土地争いと言っても暴力的なものはなく、柵を作り始めたが2日後には引き上げただけだ。
映像を見ていても争いには見えない。
詩織:「土地争いというから、血生臭いのかと思いましたけど、近所の人が勝手に入ってきた感じですね」
千秋:「武器もないだろうから、武器で争うことはしないだろう」
ビアンカ:「拳銃ぐらいならあると思うぞ。火星の大気の中では使えないと思うが…」
詩織:「拳銃があるのですか?」
ビアンカ:「あると思うぞ。反乱対策のマニュアルを見たことがあるが、船長が持っているはずだ」
詩織:「宇宙に持ってくる必要はないと思いますけど… どうして中国はスピンローンチで失敗して放射能汚染された土地に柵を立てたのでしょう?」
千秋:「放射能汚染されている土地は、NASAが放棄したので利用しても問題ないと判断して農地を作成しようとしたらしい」
詩織:「放射能汚染されている土地ですよね? 土壌改良した土も汚染されていますよね? 農地にして問題ないのですか?」
千秋:「さぁ。放射能を除去する技術があるのか、気にしていないかわからないが…」
詩織:「気にしていない? 放射能は危ないじゃないですか?」
千秋:「中国がどう判断しているかは知らん」
詩織:「そうですけど… 勝手に侵入していますけど、土地の所有権ってどうなっているのですか?」
千秋:「知らん」
千秋先生の知識量はすごいけど、興味のある分野と興味のない分野の差が激しいよね…
調べようかなと思ったらビアンカを教えてくれた。
ビアンカ:「宇宙条約の第2条で規定では、天体を含む宇宙空間に対しては、いずれの国家も領有権を主張することはできないとある」
詩織:「えっと、誰のものでもないということですか? だとすると、中国の侵入も問題にならないのですか?」
ビアンカ:「私が言ったのは1966年に採択された宇宙条約だ。現在、国連は機能していないに等しいので、新たな採択は難しいだろう。だから、基本的には先に開拓したもの勝ちだな」
詩織:「大雑把ですね」
ビアンカ:「火星は明け渡したからNASAが勝手にするが、アステロイドベルトは死守する必要がある。防衛は考えておいた方がいいだろう」
詩織:「防衛って、誰かが攻めてくるということですか?」
ビアンカ:「準備は必要ということだ」




