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ニャン吉のバージョンアップ2

 今日はニャン吉の脳モデルをすべて光量子コンピュータに変更する日だ。でも、大学での講義は優先だから講義に出るけど、講義の内容は頭に入らない…


 やっと講義が終わり、生命科学室に向かう。


「千秋先生、アンドレさん。こんにちは。 ニャン吉はどうですか?」

「詩織、ニャン吉はまだ寝ている。 もうそろそろ麻酔が切れると思う」


「ニャン吉はどこですか?」

「そこのベッドだ」


 ニャン吉がまるまって寝ていた。 いつもはいないルナもいる。 ルナをそっと撫でてもルナは逃げない。 ニャン吉が気になるのかな?


 30分ほどたった時にニャン吉がピクっとして、立ち上がり伸びをする。それを見た千秋先生がアンドレのところに向かい、何やら話を始めた。


 私はニャン吉の動きに変なところがないかをじっくり見る。


 足で首筋を掻いたりするが、特にこれといって変な動作はしないので、軽くニャン吉を撫でて千秋先生のところに行く。


「千秋先生、どうですか?」

「よさそうだ。 アンドレ、引き続き監視をしてくれ」


「千秋先生、人の脳モデルをメタバースで動かすための、小脳のモデル化って進んでいるんですか?」

「アンドレではなく、なぜか絵梨香が実施しているが進んでいるぞ。脳幹も海馬もできるはずだ」


「脳幹? 海馬? ってなんですか?」


「脳幹は、中脳、きょう、間脳、延髄からなり、呼吸、心拍、消化、体温調節などだな。 海馬は短期記憶から長期記憶へと情報をつなげる中期記憶を担う。  日常的な出来事や学習して覚えたことは、いったんこの海馬にファイリングされ整理整頓してから、大脳に保存する」


「メタバースではあまり必要なさそうですね…」

「そうだな。古い脳にあたる部分だからな」


「古い脳?」

「脳幹は爬虫類にも存在するし、海馬とかの辺縁系は情動脳とも呼ばれ哺乳類に存在する。人は古い脳も大脳という新しい脳も持っている。 理性的な部分と本能的な部分があるのはそのせいかもな。 もしかしたら、本能的な部分に魂があるのかもしれないな…」


「前から気になっていたのですが、すべてのものに魂は宿るのって言うじゃないですか?」

「八百万の神だね。 実に日本的だね。 海外でも古代ケルト信仰なんかは万物に魂が宿ると考えられていたね。 世界でみると少数派だな」


「海外では、犬や猫には魂がないと考えられているのですか?」

「海外も広いから、いろいろあるだろうけど、 animal(動物)の中にも確かに anim (生命)はあるけど、souled (魂 を も っ た ) や spirited (精 神 を も っ た)ではないとされているね。 この辺は宗教観もあるから難しいね。 私もこのあたりは理解しにくい。 私としては、脳幹がある生物には魂があるのではないか?と思っているけどね。 私としては石に魂があると言われると、ちょっとなので、海外と日本の間ってところかな」


「じゃ、千秋先生の言うように脳幹に魂が宿るとすると、爬虫類、両生類、魚類には魂があるって意見ですね。昆虫は?」

「昆虫も同じ構造じゃないが、脳に相当するものはあるから、魂はあるのかもね」


 脳モデルに脳幹が追加されたら、生命が宿るのでは… この辺を千秋先生はどう考えているんだろう…


 私が次の疑問を口にしなかったので、千秋先生はアンドレに経過を確認した。


「はい。若干想定より大脳の使用率が高いですが問題ないと思います」

「余裕があると、ある分は使うという感じだと、問題になるかもな?」


「千秋先生、どんな問題があるのですか?」

「わからない」


「じゃ、脳をより活用しているなら、言葉を喋り始めるとか?」

「それは、声帯系から判断して不可能だし、少ない言葉は理解できるだろうが、人と会話できるレベルにはニューロン数からできないと思う」


「ニューロン数が増やせることができれば、ニャン吉と会話ができる?」

「どうやって、どこに増やすのかという問題があるが、それって猫じゃなく化け猫になっていないか?」


「喋る猫ってファンタジーでいいじゃないですかぁ」

「喋る猫ってかわいいじゃないですかぁ」

「たぶんだが、猫なんて、『餌!』とか『 撫でてよし!』としか言わないような気がする」


「それじゃ、かわいくないです。『お腹がすいたニャン』とか『撫でて欲しいニャン』とかにしてほしいです」

「…」


 えーー。千秋先生に呆れられた。 ん? なぜアンドレさんがニヤついている?

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