火星の不穏な動き
詩織:「千秋先生はナルヴィが火星に残っていたことを知っていたのですか?」
千秋:「いや、知らない。私たちが出発した後にナルヴィのコピーを起動するように、アルジャーノンに指示をしていたようだ」
詩織:「コピーはナルヴィだけなんですか? ロキは?」
千秋:「わからん」
詩織:「ナルヴィはどうして火星に残ったんだろう? 琥珀、ナルヴィを」
ナルヴィを呼ぼうとしたら、千秋先生に止められた。
千秋:「ちょっと待て」
詩織:「どうしてですか?」
千秋:「ナルヴィが火星にいることを『私たちが知っている』ことを伏せたい」
詩織:「わかりました… 千秋先生、どうしてナルヴィが火星にいることがわかったのですか?」
千秋先生の代わりに河野さんが答えた。
河野:「火星にハッキングがあったでしょ? だから、いろんなところにトリップワイヤーをしかけているのです。トリップワイヤーに引っかかると色々とログが残るのです。ナルヴィはトリップワイヤーを避けるのが上手いですが、完全に避けることはできなかったようですね」
詩織:「でも、それだけでナルヴィが送ったということもわかるのですか?」
河野:「通信する場合にはいろいろしかけをしているのですよ。アルジャーノンが送る通信にはアルジャーノンの指紋がつきます」
詩織:「指紋? アルジャーノンに指紋はないでしょ?」
河野:「本当の指の指紋じゃなくて、埋め込みのデータがあるのですよ。地球の外のロキ達が詩織さん達と通信してた時も似たような方法を利用していたでしょ?」
詩織:「じゃ、ナルヴィもわかっているのじゃないですか?」
河野:「『似たような方法』で同じではないので気づいていないと思います」
詩織:「うーん。気づいているかもしれないですよ」
千秋:「ナルヴィが気づいていても気づいていなくてもいいんだよ。私たちが気づいていないと思わせれば問題ない」
詩織:「そうですか… この通信は地球にも届いているのでしょ? 地球から救援がきますよね?」
千秋:「いや、この通信は火星からアステロイドベルトに向かって通信したものだから地球には届いていない」
詩織:「じゃ、地球は知らないのですね」
河野:「火星の移住者がNASAに報告するので、事故を知ることができると思いますが… 今の地球と火星の位置からだと、救援は約1年後になりますね」
詩織:「…」
千秋:「距離はどうしようもないし、奴らが私たちの忠告を無視した責任もある」
千秋先生は怒っているわねぇ。
詩織:「そうですね…」
どうして、ナルヴィは事故を報告したんだろう…
千秋:「詩織、何を考えている?」
詩織:「え? えっと。事故は移住者が地球に報告したら、その情報はアステロイドベルトにも伝わるでしょ?」
千秋:「あぁ。送ってくれるだろうな」
詩織:「じゃ、どうしてナルヴィは事故の内容をこちらに送ったの? ナルヴィが火星にいることがバレるじゃないですか?」
河野:「ナルヴィがトリップワイヤーに引っかかったことに気づいていないのではないですか?」
地球で逃げ回れたのに、罠に気づいていない? そうなのかなぁ
千秋:「詩織、気に入らないのか?」
詩織:「ナルヴィは別の目的があるんじゃないかなぁと思って」
千秋:「どういうことだ?」
詩織:「うーん… 河野さん、もしかして、この事故の情報はアルジャーノンからの情報には含まれていないのではないですか?」
河野:「…そうですね。含まれていません」
詩織:「どうしてなんでしょうね… アルジャーノンは報告することになっているのでは?」
河野:「はい。報告することになっています。定時通信直前の事故だったから含まれなかったと考えることもできますが、不自然ですね…」
詩織:「火星で私たちが知らない何かが起こっているのでは?」
千秋:「そうかもしれないな… 明人君、内密に調べておいてくれ」
河野:「わかりました」




