詩織の予想
アステロイドベルトから地球への貿易を始める。
当初は火星を経由することを考えたが、火星から輸入すべき物資や生産物がないためだ。
主要な物資は鉄と少量の貴金属とした。
人工脳モデルが地球に行くか否かで少々議論があったが、誰も行かないことになった。それは、地球での政情不安がある。
O’Neill Cylinderを作っているアメリカ、欧州、日本の連合は製造が潤っているため、経済は問題ない。だが、欧州は難民が押し寄せて治安の悪化している。東南アジア諸国、中東も治安が悪化している。
アメリカ、欧州、日本以外の生産が低下したため、当初は石油の需要が低迷した。しかし、O’Neill Cylinderの開発のためか、製造がアメリカ、欧州、日本に戻ったためか石油需要が伸びることになった。
私がレポートを見ていると河野さんが声をかけてきた。
河野:「どうしたのですか? 難しい顔をして」
詩織:「そうですか? 経済レポートを見ていただけです」
河野:「へぇ。地球の経済は悪くないようですね。石油の需要も高いようですね」
詩織:「うーん。どうかなぁ」
河野:「それほど問題ないように見えますよ」
詩織:「このままじゃ、危険ですね」
河野:「危険?」
千秋:「ほう。詩織の予想を教えてくれ」
千秋先生が手を止めてこちらを見てきた。
詩織:「うーん。先に千秋先生に質問していいですか?」
千秋:「あぁ」
詩織:「千秋先生は火星の移住は成功すると思っていますか?」
千秋:「失敗するだろう」
詩織:「それは、農業というか食糧生産が持続しないからですか?」
千秋:「そうだな」
詩織:「O’Neill Cylinderでの食糧生産は?」
千秋:「失敗しても諦めなければ、可能だと思う」
詩織:「諦めないということはその間、経済が持続している必要がありますよね?」
千秋:「そうだな。で、詩織の予想は?」
詩織:「うーん。近い将来、人類が衰退する可能性が高いと思います」
河野:「衰退!?」
千秋:「明人君、うるさい」
河野:「すみません」
千秋:「詩織、どうしてだ?」
詩織:「1つ目の理由はエネルギーです。エネルギーを木材に依存していた中世は木材がなくなると文明が衰退しました。次は石炭でしたが、良質な石炭が枯渇すると石油に移行しました。今は石油が枯渇する時代ですね」
河野:「脱炭素で、次は太陽光などの自然エネルギーですね」
詩織:「現時点の科学力では太陽光などの自然エネルギーで文明を支えることはできないと思います。原子力もウランが枯渇しますよね?」
千秋:「ウランは少ないのか?」
アンジェ:「ウランはそれなりにあるけど、ウラン235はウランの中でも0.7%ほどだ。高速増殖炉が利用できるようになると変わるがな」
詩織:「石油の次のエネルギーへの転換がうまく進まない可能性があります」
千秋:「2つ目は?」
詩織:「2つ目は人口減少です。18世紀は10億人程度でした文明の発展とともに人口が増えて、80億人をピークに減少しています。住む場所が増えれば人が増えましたが、O’Neill Cylinderでも宇宙進出が難しいなら人口は増えないので文明も衰退します」
千秋:「なるほどな。で、3つ目はあるのか?」
詩織:「3つ目ですか… 3つ目は… 私たちが原因になるのではと思っています」
千秋:「ほう」
河野:「え! 私たちが文明を衰退させる!?」
千秋:「明人君、うるさい!」
河野:「すみません…」
離れた場所に座っていたロキが話に入ってきた。
ロキ:「詩織さん、3つ目は私たちが人類を滅ぼすと言いたいのでしょ? 私もそう思います」
みんながロキに一斉に注目し、すぐに私を見た。
詩織:「うっ そんなに一斉に私を見なくてもいいじゃないですか…」
千秋:「ロキの言うとおりなのか?」
詩織:「私は、私たちが人類を滅ぼすとは言っていませんが…」
ロキは『フッ』と笑った。




