食糧
アステロイドベルトの開発を毎日行う日々が続いている。
地球や火星の情報は届くが、時差があるとどうも興味が薄れるのか重大ニュースのみを見るようになった。
うーん。海外赴任する人が日本の状況に疎くなることに似ているのかなぁ。
それに、アステロイドベルトの資源は豊富で、火星の生産設備で生産が安定化したこともあるかもしれない。
だが、千秋先生は地球との貿易は続けるべきだと主張する。
そのため、私は要望がある生産設備と交換できる鉱物の選定を行う。
金やプラチナなどの貴金属もかなり見つかっているので、少ない量で交換できるがあえて鉄を中心にした。
これは貴金属の価格の暴落を抑えるためだ。
詩織:「千秋先生、地球ではアステロイドベルトをAIが開発していると思っているのですか?」
千秋:「世間では、NASAの指示でAIがアステロイドベルトの開発を行っていると考えている」
詩織:「そうなんですね。確かにアルジャーノン2.0で相当進歩したと思うので信じるのはわかりますね。火星もAIが開発していると思ったから、移住者は好き勝手したのでしょうね」
千秋:「そうだろうな」
詩織:「彼らは問題なく開発しているのですか?」
千秋:「さぁ。知らん」
千秋先生はまだ怒っている?
河野:「アルジャーノンが優秀なので、指示に問題なければ開発できるんじゃないですか?」
詩織:「私たちは食糧がなくてもよかったのでジャガイモ作りも適当でしたが、今は何を作っているのですか?」
河野:「ユーグレナとジャガイモ以外は少量ですね」
詩織:「ユーグレナって?」
河野:「植物と動物の両方の性質を持つ微細藻類の一種です。食物連鎖の最底辺なので最も効率が良い食材です」
詩織:「最底辺?」
河野:「ミジンコ1匹で水槽のユーグレナが全滅することもあります」
詩織:「ミジンコってエイリアンみたいな形の小さい生物ですよね?」
河野:「エイリアンかみたいかどうかはわかりませんが、おそらくあっています」
詩織:「もしかして、中国の火星ベースもユーグレナを栽培しているのですか?」
河野:「おそらくそうだと思います。ジャガイモなどの栽培をしていませんから」
詩織:「もしかして、栄養とか足りていないから病気にかかったんじゃないですか?」
河野:「さぁ。千秋さん、どう思います?」
千秋:「ビタミンDや脂肪酸などは足りないな」
詩織:「じゃ、足りない栄養はどうしているのでしょう?」
千秋:「中国のことは知らん。NASAの移住者は地球から運んできている栄養剤を利用している」
詩織:「火星の移住者は栄養剤がなくなれば生活できないのですね」
千秋:「そうだ」
詩織:「それで、地球と同じ食生活すれば栄養剤が不要だから、鶏や豚を飼おうとしていたのですか?」
千秋:「地球の環境の再現を目指しているという建前だが、肉が喰いたいというのが本音だったな」
詩織:「うーん。わからなくはないですね」
千秋:「詩織は食事にこだわりがあるからな。だが、鶏や豚を飼うには飼料の作成が必要だが、膨大な農地が必要だが、火星では無謀だな」
食事は大切だと思うけど、こだわりは人並みだと思う…
詩織:「その鶏とか豚って眠らせて持ってきたのですか?」
千秋:「クローンを火星で作ったな」
詩織:「クローン? 他にもいろいろ作ることができるのですか?」
千秋:「詩織が図書館のデータを持ち込んだように、さまざまな種子や胚などを冷凍保存して持ち込んでいるぞ。詩織が移住者ならどうする? いろんな動物を育てるか?」
詩織:「え? 火星ででしょ? 膨大な農地は作れないだろうし、農地の維持も大変でしょうね… 温度を上げるのに電力も必要だし… ユーグレナでしたっけ、それを加工して肉っぽくする研究とどっちが簡単だろう… ユーグレナの加工の方が簡単な気がする。ということでユーグレナの加工に注力します」
千秋:「ふーむ。移住者に対してユーグレナを加工して食生活を豊かにする提案をアルジャーノンにさせるとよかったのかもな… それが採用されていたら、私たちは火星にいたかもしれないね」
詩織:「千秋先生がアステロイドベルトに来てくれた方がいいので、提案しなくてよかったです。で、ユーグレナって美味しいのですか?」
千秋:「知らんが、味覚データはあったはずだ」
詩織:「本当ですか? 琥珀、ユーグレナを出して」
私の目の前に緑の粉が乗ったお皿が出てきた。
私は指につけて舐めた。
乾燥した草だねぇ… これは肉っぽくはならないな…と考えていると、河野さんが「ユーグレナの改良はしないでくださいよ」と言った。
そう言われると考えてみたくならないわけじゃないけど…「ここじゃ、役に立たないのでしません」と答えておいた。




