ニャン吉のバージョンアップ1
ここのところ、毎日変わりなく大学での授業を受け、優佳に付き合いが悪いと怒られ、生命科学室でニャン吉と戯れる日々…
優佳はサークルにボランティアのサークルに入っていて神木児童福祉施設にも行ったらしい。神木孤児院は今は神木児童福祉施設に名前が変わっているそうだ。
優佳に私も神木児童福祉施設に行こうと誘われたが、香織お姉ちゃんからNGが出た。
香織に神木公人さんはどんな人だったのかを聞いてもらったら、10年以上前に出たのでわからないと言われたらしい。
神木孤児院がどんなところだったのかを見たかったのに、なんか、私、自由が少ない…
生命科学室では、神木公人さんが行った検証の記録を見ているが、発展もなし。
はぁ。進まないねぇと思ってニャン吉を撫でていると、アンドレさんが声をかけてきた。
「詩織さん、ニャン吉は明後日は休眠させることになったから会えないよ」
「休眠ってなんですか!?」
「メンテナンスするので、その間は寝ていてもらう」
「えー! どうしてですか?」
「想定より脳活動が多くって、情報を扱うコンピュータの増強が必要になったけど、根本的に変更を加えることになったんだ」
「どんな変更ですか?」
「脳の接続を管理するコンピュータ部分は従来のコンピュータで動いているけど、その部分も光量子コンピュータに変更します」
「なぜ最初から脳の接続を管理するコンピュータも光量子コンピュータで作らなかったのですか?」
「大容量の光メモリが手に入らなかったからなんだ」
「たしか、メモリって電気を貯める?ことで実現しているって聞いたことがあるんですが、光って貯める?ことができないですよね?」
「詩織さんは、よく知っているね。 電気も流れるだけで貯めるのは難しいんだよ」
「そうなんですか?」
「実現されたものを見ると当たり前に思えるからね… フォトニック結晶というのがあって、共振することで記録できるらしいよ」
「もしかして、アンドレさんは原理がわかっていないのですか?」
「すべての原理や動作を知らなくても使うことはできるでしょ?」
「そうですけど…」
私が少し不満げな顔をしたからなのか、アンドレさんが説明を続けた。
「じゃ、詩織さんは自転車に乗る時、どうして倒れないか説明できる?」
「倒れる方向にハンドルを切っているからですよね? ジャイロ効果ってのも関係するらしいですけど…」
「え? そうなんだ… 知らなかった… 詩織さんも知らないと思ったのに… 千秋さんが出した例がいいと思っのにな…」
「千秋先生は自転車に乗ったことないからじゃないですか?」
「えー! そうなんですか?」
「千秋先生ってすごいお嬢様なんだよ。それで小さい時に禁止されていたと聞いたことがあるよ」
「詩織さんもすごいお嬢さんでしょう? その詩織さんが、すごいお嬢様っていうということは超お嬢様なんだ… そうは見えない…」
「千秋先生に怒られますよ」
アンドレはキョロキョロして、千秋先生がいないことを確かめているようだ。
「大丈夫ですよ。千秋先生はいませんよ」
「…よかった…」
ごめんないさい。知らない予定だったのですね… 話の腰を折って…
「話は戻りますが、従来のコンピュータを増強すればいいだけじゃないですか?」
「そうなんだけど、脳細胞をシミュレートする光量子コンピュータは光で動いているだろ。 今までは電気で動くコンピュータで脳の接続情報を取り出して、光に変換して光量子コンピュータに設定する。 入力値を光に変換して脳細胞のシミュレーションを実行して、結果を電気に戻すということが必要だったんだ」
「光と電気の変換を何回も実行が必要なんですね」
「そう! 肉球を触るだけで、数千回も脳細胞のシミュレーションが必要なんだ。 内部では、脳の接続を検索した結果を電気から光に変えて、光量子コンピュータに設定して脳細胞をシミュレーションして結果を光から電気に変換する。 これを数千回実行すると、光と電気の変換が万の単位で必要となるんだ。 この変換は全体処理の20%もかかっているのでそれが1%以下になるので高速化が可能なんだ」
「光量子コンピュータだけでだと光と電気の変換が不要なんですね… わかったよううな気がします。 私が気になっているのは、ニャン吉に危険はないのですか?」
「ニャン吉の大脳処理のコンピュータを変更する間は寝てもらうだけだから、大丈夫だよ」
「ニャン吉は私のことを忘れたりしませんよね?」
「データ部分はそのままだから忘れないはずだよ」
「アンドレさん、もしかしてメタバースに接続している脳モデルが機能しないのは、従来のコンピュータで速度が間に合っていないということですか?」
「その可能性はほぼないと思う。 でも、人間の脳モデルが本格的に動作するには、光量子コンピュータでなければ速度で問題がでると思う」




