セバスチャン2.0
私はセバスチャンの改良を行うことにした。
セバスチャンは執事だったんだけど、ちょっと不満だった。
「セバスチャン、お茶を用意して」
「かしこまりました」
セバスチャンが部屋を出た。そして、扉を開けるとワゴンと共に入ってきてポットからお茶を入れてくれた。
動きが少しぎこちない。食器が擦れる嫌な音はしないけど、これは音を出していないだけのような気がする…
「少し動きがぎこちないわね。琥珀、わかる?」
「人が行うお茶の淹れ方では、茶器を持ち上げる場合も置く場合も速度を遅くして丁寧に対応しますができていません。また、カップを持ち上げる場合も速度が早いことから、高級感が損なわれています」
「琥珀、素晴らしいわ。修正してくださる?」
セバスチャンはワゴンを消して部屋を出ていこうとした。
「セバスチャン、ワゴンは急に消えることはないわ。ちゃんとワゴンを押して外に出て」
「失礼いたしました」
セバスチャンはワゴンを押して部屋を出てやり直した。
3回繰り返すと、修正を指示する部分もないぐらい自然な動作となった。
え? こんな方法でよかったの? 不気味だなぁと思っていたのが、こんな簡単に修正できるんだ… 以前はものすごく苦労したのに…
食事の配膳も同じ方法で改善できた。
問題は歩き方だ。女性の歩き方はなんとなく悪い部分を指摘できるけど、男性の歩き方は変としか指摘できない。琥珀の指摘でも直らない。
男性のことは男性がわかるよね。ということで、河野さんを琥珀に呼んでもらった。
しばらくすると河野さんが現れた。
「詩織さん、何でしょうか?」
「こちらに座ってください。セバスチャンがお茶を淹れます」
「セバスチャン? わかりました」
セバスチャンが扉を開けてワゴンを押して入ってきて、お茶を淹れ、一礼をして扉を閉めた。
「河野さん、セバスチャンの動きはどうです?」
「動き? 見ていませんでした」
「え! そうなんですか?」
「だって、動きを見ろとは言っていなかったじゃないですか?」
「そうだけど… 不自然とは思いませんでしたか?」
「特に… 不自然とは…」
「はぁ。河野さん、セバスチャンの動きに注目して観てください」
「わかりました」
セバスチャンが扉を開けてワゴンを押して入ってきて、お茶を淹れ、一礼をして扉を閉めた。
「河野さん、どうですか?」
「すみません。まったく不自然とは思いません…」
「はぁ… 河野さんにはがっかりです。歩き方が不自然じゃないですか?」
「え? そうですか? 普通に見えました…」
そう言えば、河野さんの動きは不自然に思わないなぁ…
「河野さん、歩いて部屋を出て、入ってきて下さらないでしょうか?」
河野さんはなぜそんなことをする必要があるんだろう?と思いながら、席を立ち、部屋を出て、入ってきた。
「琥珀、セバスチャンの歩き方を河野さんの歩き方に変えてみて」
「わかりました」
セバスチャンが扉を開けてワゴンを押して入ってきて、お茶を淹れ、一礼をして扉を閉めた。
「この歩き方が私ですか!? ダメですね…」
「はい。ダメです。琥珀、修正点をしてきできる?」
「背筋を伸びていません。顎をもう少し引く必要があります。視線が低すぎます。腕の前後に振りが少ないです。足はかかとから着地していますが、スムーズな体重移動ができていません。歩幅は大きすぎます」
「え! ちょっと待ってください。そんなにひどいですか?」
「はい。ひどいです」
落ち込んでいる河野さんを無視して、「琥珀、修正してみて」と言った。
「わかりました」
セバスチャンが扉を開けてワゴンを押して入ってきて、お茶を淹れ、一礼をして扉を閉めた。
「うん。もう少し改善が必要だけど、不気味さは無くなったわ。河野さんのおかげね。河野さんもセバスチャンの動きは良くなったと思いませんか?」
「え? 最初と変わりないと思います… これって、言葉で修正点を指定しただけですよね?」
「そうですよ。 でも、どうしてだろう? 元のセバスチャンの動きでは改善点を指摘できなかったけど、河野さんの動きだと指摘できたわ… どうしてなんだろう? 河野さんの動きが酷すぎたから良かったのかしら? 河野さんの動きの酷さに感謝ね」
「感謝された気になれません…」
ごめんなさい…




