危険な香り
「これはNASAからの情報だな。中国の火星ベースでは6名が活動しており、そのうち1名が亡命を実施したとあるな」
「6名? 8名じゃなく?」
「中国の火星ベースの放出熱量からそう判断されている」
「じゃ、2名は亡くなったのですか? また病気でしょうか?」
「わからないな。病気としても致死性ではないことになる。死因は色々考えられるので考えても仕方がない」
「そうですね… こっちは地球の情報ですね。膨大にありますね。緊急度は低となっているので後でゆっくり見ておきます」
「あぁ。わかった。じゃ、作業に戻る」
私は、資料を見ていたが、疲れて伸びをした。そして、休憩でお茶を飲みながらアステロイドベルトの開発状況を見ていた。
あれ? ローバーって使ってないよね? どうして?
「アステロイドベルトの開発ですけど、ローバーは使わないのですか?」
「開発には役立たずだからな」
「そうなんですか? フォボスでも役立っていると思いますよ」
「フォボスは小さいと言っても重力があるが、ここの小惑星はもっと小さいものが多いため重力がほぼない」
「じゃ、6本腕のローバーが活躍できますよね?」
「地面の石は固定されていないから、一度浮き上がると戻ってこれなくなる」
「ヒルロボットはくっついていますよね?」
「あれはくっついているというより、多くの鉤爪で噛み付いているようなものだからな」
ビアンカはヒルロボットの小惑星にくっつく部分の構造を見せてくれたが、多数の歯?触手が口の周りにあるかなりグロテスクだった。
「ちょっとグロテスクですね… 剥がれたらどうするのですか?」
「剥がれたら? ヒルロボットをロケットに戻してから再度打ち付ければ問題ないだろ?」
「なるほど。重力がない状況というのは難しいですね。考え方を変えないと…」
「そうだな。我々は重力がある状況を前提にしているからな。詩織が読んでいた資料には何が書いてあった?」
「まだ、半分も読めていません。数字や統計資料は見てもいません。でも、中国の状況が芳しくないことはわかりました。アメリカも芳しくないですが…」
「ほう。どうしてだ?」
「中国の火星への物資補給は行われていません。アメリカも火星の貿易船での貿易以外の航行はありません」
「火星に人類を到着させるというミッションが終わったから、航行がないのでは?」と河野さんが言った。
「中国はわからんが、NASAは人類を火星に送るというイベントがあったから予算を獲得できていたということがあるな」
「うーん。私が中国なら、焦ると思いますよ」
「どうしてだ? 火星に人を送り込んでいるから宇宙進出はNASAに並んでいるだろ?」
「中国の火星の開発は進んでいないですよ」
「確かに詩織さんの言うように開発は進んでいないですけど、我々も儲かってはいないですよ」
「河野さん、『まだ』儲かっていないだけです。地球と火星の貿易船で儲けがでるようになります。それにアステロイドベルトの開発も始まったじゃないですか」
「詩織は、ベンチャー企業の社長のようだな」
「え? そうですか? でも儲けは出ますよ」
「プラチナや金を地球に大量に持っていけば儲かるかもしれないですけど、相場が下がるのですよね?」
「河野さん、『大量』に持っていけば一気に相場は下がりますが、こちらがプラチナや金の供給元なんですからコントロールすればいいだけですよ。私たちは資源国のようなものですよ」
「確かに、地球のどの国より資源を持っていると言えなくはないな。詩織は国家元首になるつもりだったのか?」
「そんな面倒なことしませんよ」
「じゃ、どうするつもりなんだ?」
「どうって… 火星には待避場所を作るためだったわ」
「火星はほぼ自立している状態だし、火星は資源国とも言える状況だろ? なら、避難場所は達成しているじゃないか? さらにアステロイドベルトの開発をして領土を拡大している」
「領土拡大? そんな気はなかったけど、客観的に見るとそう見えるかも… これってヤバイかも…」
「ヤバイ? どうしてですか?」
「うーん。勘かな… なんか浮いている気がするもの」
「女の勘ですか?」
「違いますよ。でも危険な香りがするわ」




