アルパカはでっかいうさぎ
お父さんが話をつけてくれたので、日本とアメリカの国会図書館のデータは保存できるようになった。
データ保存に最も協力的だったのは河野さんだ。アルジャーノンと一緒にデータ整理を行なっている。
「河野さん、どうして国会図書館のデータ整理に協力してくれるのですか?」
「それは…」
「それは?」
「…面倒が減るからです」
「面倒?」
「そうです。千秋さんが論文を読むと関連論文も調べます。その論文を用意しなきゃならないんですよ。一つの学会データからの取り寄せなら簡単なんだけど、古い物だと国会図書館や大学から論文を取り寄せるんだよ。ものすごく時間がかかる。でも、データが一箇所なら簡単だし千秋さんがアルジャーノンに指示するだけで読むことができる」
「なるほど… それだと河野さんの仕事がなくなりませんか?」
「そうですねぇ。最終的にはそうなるでしょうね」
「自分の仕事をなくすために仕事をしていることになりませんか?」
「そうですね… 『知識の追求が自身の役割を縮小させるなら、なぜ追求するのか?』ということですね。哲学的ですね。ニーチェなんかが言ってそうです… でも、研究対象が減っても、隣接分野や応用分野に視野を広げるので終わりはないような気がします」
「河野さんはすごいですね」
「え? なんですか?」
「アルジャーノンの普及でロボットが人の作業を奪っているでしょ?」
「そうですね。定型の単純作業はあと10年ほどで駆逐されるでしょうね」
「じゃ、駆逐されないものは何ですか?」
「そうですね… アルジャーノンは人と同じ判断基準で動くことができるので、基本的には人ができる作業はできますね… ロボットに置き換えるには経済的に成り立たないものでしょうか」
「伝統の品? 工芸品とかですか?」
「そうですね。戦略立案、カウンセリング、芸術、教育などはAIでもなくならないと言われていますが、どうでしょうね」
「じゃ、人はいらなくなるということですか?」
「さぁ。わかりません。でも、AIも万能じゃないですよ」
「そうなんですか?」
「突発的に変なことが起きたら何をするかわかりませんから」
「突発的?」
「車を運転していたら、隕石が目の前に落ちてきたら? エイリアンが急に出現したら? アルジャーノンはどう動くかは予想できないです。ま、人も同じですが…」
「確かにパニックになりますね」
「昔、デートで動物園に行ったのですが、親子で来ていた女の子が座っているアルパカを見て『でっかいうさぎ』と言ったのです」
河野さんがデート? イメージがわかない…
「アルパカって毛がふわふわしたラクダみたいな動物ですよね? ふわふわしていますけど、足が長いので、うさぎっぽくないですよ」
「座っていましたから女の子には足が長いかどうかはわからなかったのでしょう。しかも白く、耳もある程度長いので、その子にとってはうさぎに分類されたのでしょう。その後、女の子がぴょんぴょん跳ねていると、アルパカが立ち上がったのですが、足が長いことを女の子はびっくりしていましたよ」
「その子はアルパカを知らなかったからですよね? アルジャーノンはネットの情報で教育されているのでしょ? ネットはあらゆる情報が網羅されているでしょうから、人より優秀になりませんか?」
「平均的とは言えますね。多様性はありません」
「うーん。じゃ、国会図書館の情報をベースに教育したら別のアルジャーノンができませんか?」
「そうですね。教育データによって出来上がるAIは変わりますね。今より面白みのないだけじゃなく、本の情報は古いので古風で頭の硬いアルジャーノンが出来上がるような気がしますが…」
「それはダメですね。いいアイデアだと思ったのですけど… よく考えると専門家はその分野の情報で教育したAIのようなものでは? これって便利では?」
「別に教育しなくても、アルジャーノンにその分野の情報を出してもらうことと変わりないような気がしますよ」
「その通りですね… 私の考えることなんては浅いです…」
「そんなことないですよ。火星のYou◯ubeを楽しく観て、よく思いつくなぁと思いますから」
「私が考えたことなんて少しですよ。みんなのおかげです」
「人が多くいるから多様性があります。AIは標準的でバランスが取れていいんじゃないですか?」
「なるほど…」
河野さんは賢いね…




