人脳モデルの対策会議(中編)
「…千秋先生、本物の人の脳モデルって作れますか? すでに接続が完成されていれば、視覚だけでも反応するような気がしませんか?」
「なるほどな。本物の人の脳モデルか… 脳をスライスして観察すればできるが… 許されないな」
「MRIって脳の中も見れるのでしょ? それで作るとかできませんか?」
「脳細胞の接続までは見えないな。解像度が低すぎる」
解像度って前に話があったよねぇ。
「橋田さんは核スピンがどうのこうのすればMRIの解像度が上がるとか言っていませんでした?」
「言いましたね。どう思います? 千秋さん」
「借りられるか相談してみるよ。やっぱり詩織と話すと考えが散らかるからいいな」
「それって、褒めてないですよね… じゃ、高性能のMRIを実施する方針ですか?」
千秋先生がこめかみを指で叩いている。考えているのかな?
「MRIは借りられるかどうかわからないし、借りられたとしても日程が不明だ。本物の人の脳モデルを採用したとしても、聴覚は必要だ。ということで、小脳のモデルはアンドレに作成してもらい、メタバースとの接続は橋田に担当してもらう。いいな。橋田」
「はぁ。わかりました」
「千秋先生、小脳ってどんな働きをするんですか? 以前、橋田さんは聴覚の話をしている時に、小脳はリズムを認識していると言っていましたが、他にも担当している機能があるのですか?」
「小脳はリズム以外にも空間把握も担当しているな。それに、生活習慣も小脳だね。生活習慣といえば、詩織はまだトレーニングしているのか?」
「していますよ」
「もしかして、小さい時にしていたピアノも続いているのか?」
「はい」
「詩織は高校生の時、学園祭でガールズバンドでドラムを叩いていたが、あれは?続けているのか?」
「あれは、学園祭だけですね。みんなヘタだったのでリズムを合わせるのが大変だったんですよ。でも、意識不明から目覚めて音楽の先生に挨拶のために教室に行ったら、先生たちとセッションしようってなって、私がドラムをすることになったんだけど。さすが先生たちが上手いから合わせるのが簡単ですっごくよかったんですよね。先生たちも超褒めてくれて、続けろって言われたけど、ドラムセットは家の雰囲気に合わないからお断りしちゃった」
「そんな理由で断るのか、基準がよくわからんな」
「詩織ちゃんはドラムなのに他の楽器に合わせるの?」
「そうですけど…」
「僕は少しバンドをやっていたけど、他の楽器はドラムとベースに合わせるんだけど」
「あ、それ聞いたことあります。でも、バンドって全員が揃わないじゃないですか? だから合わせてあげると言うか、そんな感じです」
「じゃ、世の中のバンドや音楽も揃っていないと思うの?」
「よーく聞けば、揃っていないですよ」
「揃っていないなら、音楽を聴くのは苦痛?」
「気にならない程度には揃っているので苦痛はないですよ。ヘタなバンドは苦痛ですけどね」
「じゃ、詩織の小脳のリズムに関するテストを少ししてみるか?」
「いいですよ」
千秋先生は端末を操作した。
「今から鼓動のような音を何種類も流す。リズムが一定か違うかを言ってくれ」
千秋先生は明らかに違うものから微妙なものまで10種類ほど流した。
「どうですか?」
「…橋田、同じように聞いていただろ? どう思った?」
「2つは明らかにリズムが違いましたが、他は同じだと思いました」
「えー。微妙なのが1つありましたが、6個は違いましたよ」
「橋田は音楽は得意か?」
「普通ですね」
「そうか、香織は小さい時からピアノをやっているので、香織で実験してみるか。それに、音楽教室の先生にも協力してもらおうかな…」
「香織お姉ちゃんや音楽教室の先生で実験するのはいいんですけど、私の結果はどうなんですか?」
「5個が同じだ」
「じゃ、1個間違えたんだ。これって優秀?」
「…優秀だな」
「ところで、これは何の実験だったのですか?」
「音の感覚が微妙に違ったろ。パーキンソン病の人はテンポがとりにくいという症状があるそうだ。その試験データだ」
「パーキンソン病って体が動かしにくくなる病気ですよね? それが小脳と関係するんですか?」
「らしいな」




