試運転
重機も拡充が進み、掘削はアルジャーノンが実施している。
また、プラズマによる精錬もアルジャーノンが実施するようになった。
生産などの方法が確立できれば、作業としてはアルジャーノンが実施で問題ない。
ここでのアルジャーノンの活躍を考えると、地球で一般的な仕事がなくなるのはすぐ目の前になると思える…
アンジェの超伝導素材は糸状にしても硬く、曲げると折れやすかったた。それを小織とアンジェが改良してなんとか超伝導モーターが作成できた。
その超伝導モーターはスピンローンチ2号機として活用する予定で、性能実験を悠人がした。
超伝導モーターの性能というか特性がスピンローンチ1号機と違うらしい。悠人が言うにはトルクパワー?が少し弱いのでモーターのコイルの巻き数を変更した。
スピンローンチ2号機の試射では、1号機と同じく失敗映像が撮れるかと思ったが、なんと一発で成功… 面白映像が撮れるのでYou◯ubeで再生回数が伸びると思っていたのに残念とは口にはできない。
貿易するためにはかなりの物資を宇宙空間にあげる必要があるためスピンローンチを増産する必要があると言っていると、スピンローンチの物資を振り回す腕にヒビがみつかった。
「鉄もヒビが入るのねぇ」と呟くと、河野さんが「金属疲労です。それに、腕の長さが1%ほど伸びていました」と言った。
「へぇ。鉄って、疲労もするし、伸びるのですね」
「はい。疲労すると破断しますし、引張でも熱でも伸びます」
「はぁ。メンテナンスの計画をしないといけないですね…」
私はスピンローンチの3号機の作成を依頼した。
ロケットでは、地上から打ち上げた鉄の粉を利用して3Dプリンタでエンジンを制作している。
自分で自分を改造していると考えるとちょっと不思議…
モジュール化されているので、簡単とビアンカは言っているけど、私にはさっぱりだ…
製造はみんなに任せて、貿易品の調整を行った。
目玉商品はシリコンのインゴットだ。結晶欠陥が少なく高品質で、地球のチップ作成の需要にマッチしているからだ。
主要な貿易品は鉄の粉と水だ。地球の地上では火星から送る鉄の粉も水も高すぎて需要はない。しかし、宇宙空間にあるとなると意味があるそうだ。
地球では宇宙ステーションを建設を予定しているらしい。
その宇宙ステーションの建設は我々が送る鉄の粉を3Dプリンタで作るらしい。
私たちのエンジン作成の方法と一緒だね…
水は宇宙ステーションで人が生活するために利用するとのことだ。
火星の水は地球と比較すると非常に少ないが、氷はかなり見つかっている。
私たちも精錬などで水は利用するが、人が生活に必要な量と比べるとはるかに少ないので輸出しても問題はない。
貿易の準備を日々行うことが続いた。
プラズマエンジンの作成は予定より半月遅れで完成し、今日は試運転だ。
試運転といっても、ほぼエンジンのみというロケットを利用する。
そして、フォボスを回って帰ってくる。
ついで?にフォボスに開発資材の投下も行う。
兎:「少し遅れましたけど、完成ですね」
アンジェ:「スピンローンチの増産をしなければもうちょっと早くできたぞ」
兎:「すみません。遅延は私の責任です… ビアンカ、準備はいいですか?」
ビアンカ:「いいぞ。始めよう」
兎:「はい」
ビアンカ:「点火…」
ビアンカが空中に表示したグラフを凝視している。
しばらくすると、ロケットから青白い炎? が出始めた。
兎:「動きませんね…」
ビアンカ:「状況確認のため、推力を抑えているからな。異常なく動作しているよ」
アンジェ:「化学ロケットのような推力はないから、全力でも一気に動くことはないよ」
兎:「なるほど…」
河野:「兎さん、盛り上がっていないですね…」
兎:「あまり変化がないので…」
河野:「火星で作成されたロケットが衛星まで行くという快挙ですよ。すごいイベントなんですよ!」
兎:「そう… じゃ、You◯ubeの再生数は伸びるかしら…」
河野:「もちろんですよ! 世界中が注目ですよ!」
河野さんが盛り上がっている横で伊織が「退屈ね… 再生数が伸びるわけないわ…」と呟いた。
そうね。私もそう思う。
徐々にロケットは動いていった…




