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イオンジェット

 私はオペレーションルームに戻り、ビアンカに地球への輸送のコスト削減について相談する。

「ビアンカ、ちょっと話できる?」

「あぁ。いいよ」


「火星の製品を地球に運んで、帰りに製造設備を運ぶ貿易をしたいの。今、地球との輸送のロケットはコストが高いと思うけど、どうにかなりませんか? 火星にあるロケットを利用して安価に地球まで往復できませんか?」

「メタンを大量に生産できれば可能だが、現時点では無理だ」


「え? 今でもロケットの帰りの燃料を提供していますよね?」

「あぁ。しているよ。荷物は火星にほとんど置いているので軽い。だから帰りは10%程度のメタンの量で問題ない。だが、輸送は往復だから今の20倍ほどのメタンの生産が必要だ」


「20倍… 確かに無理ですね。では、だめですね…」

 ビアンカは少し考えて「兎、輸送では人は乗るか?」と言った。


「乗る必要はないです」

「じゃ、トリウム溶融塩炉の電力でイオンジェットを作るか?」


「え? ロケットを作る? できるのですか?」

「あぁ。できるよ。それに火星の二酸化炭素を推進剤にすれば安上がりだろ? そこらじゅうにドライアイスが存在するから作る手間もない」


「二酸化炭素が燃料にできるのですか?」

「イオン化して飛ばしてしまえばいい」


「なんか乱暴ですね。でも、手間がかからないのは素敵ですね! でも何か欠点があるのでは? ん? 人が乗るかどうかを気にしていましたけどどうしてですか?」

「トリウム溶融塩炉は火星産を使うだろ? 被爆のことは考えていない。安全性は二の次だからな」


「なぜ、今までイオンジェットにしないかったのですか?」

「燃料を燃焼させる化学エンジンと比べて推力が小さい。それに地球から打ち上げに使ったエンジンを活用できるからだな。さらに、火星で作ったメタンで帰りの燃料を補給できるというメリットがあるが、輸送に必要なメタンの量の生産は現時点で火星では無理だ」


「でも、推力が小さいということは、大量に運べないのではないですか?」

「トリウム溶融塩炉を利用すれば長く加速できるから可能だ。それに、地球までの距離が長いから化学エンジンより最終的には早く着く」


「兎と亀の話みたいですね」

「兎と亀? 競走をはじめる前に、自分そっくりな弟をゴールに近くに配置して勝つという話か? いや、兎はかっこよくゴール前で抜く予定だったが、失敗した話か?」


「はい? なんですか? そんなインチキ話。ビアンカの自作ですか?」

「いや、そうじゃない」


「兎と亀と言ったら、兎が油断して寝てしまうけど、亀は地道に走り続けて勝つという話ですよ」

「なるほど、そういう話か…」


「ビアンカ、そのイオンジェットエンジンのロケットはどのくらいで出来ますか?」

「1ヶ月ほどでできるな」


「そんなに早く? 難しいと思っていました」

「作ったことがあるから問題ない」


「そうなんですか!? さすが、NASAのエンジニアですね」

「だが、問題が3つある。1つ目は、エンジンは作れるが、ロケット本体までは作れない。だから火星の衛星軌道上のロケットを改造するが問題ないか?」


「はい。利用する想定でしたけど、問題ないかはみんなと相談します」

「2つ目は、ロケットのモジュールに荷物を入れて運ぶことになるが、モジュールがない」


「あ、そうですね。火星に降ろしているモジュールも衛星上のモジュールも使っていますよね… 作るしかないですね」

「で、最後の3つ目は、ロケットの制御はアルジャーノンのみになる」


「問題ないと思いますけど…」

「想定内の問題なら対応可能だろうな。わかっていないかもしれないが、そのアルジャーノンは人工脳モデルの補助なしだぞ? ロケットの制御コンピュータに光量子チップは入っていない。だから、普通のAIだぞ」


「うーん。普通のAIってどんなものかがわからないです… 光量子チップを組み込む? 小型のものを載せる? 考えた方がいいですね。これは、千秋先生に相談ですね。なんか、あれもない、これもないって嫌ですねぇ。じゃ、ビアンカ、ロケットの制作に取り掛かって欲しいのですけど、精錬の方は問題ないですか?」

「熱の上昇のムラが多いので、効率は良くないができているよ。だから、ロケットに取り掛かれる」


「わかりました。お願いします」

すみません。1話から読み返すと誤字がひどかったです。

時間はかかりますが、修正します。

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