中国のローバーの活動再開
オペレーションルームに戻った。
「千秋先生、河野さんに聞いたのですけど」というと、千秋先生は目配せをした。
移動するのね。
私たちは城に移動した。
千秋先生が「アンジェとビアンカと明人君も来る」というと、すぐに3人が現れた。
千秋:「中国の火星ベースのローバーが活動を再開した。詩織のためにおさらいをする。これを見ろ。ローバーの位置が変わっているだろ?」
兎:「変わっていますね。風で飛ばされたということはないですか?」
千秋:「いや、風はない状態でも位置が変わっているので、飛ばされたということはない」
兎:「じゃ、病気が治って活動を再開させたということでしょうか?」
千秋:「確率は非常に低いと思う」
兎:「じゃ、地球からの指示で動き始めたとか?」
アンジェ:「それができたらもっと早く再開させていると思うな」
兎:「定期的に再起動するように設定されていたとか… そもそもどうして停止したんでしょう?」
河野:「バグじゃないですか?」
兎:「バグ? って虫? 虫が火星にいるのですか?」
河野:「虫じゃないです。プログラムのミスです」
兎:「あ、わかりました。止まってしまうような致命的な問題って修正してから利用すると思いますけど…」
河野:「ソフトウエアはとりあえず動かして、問題があれば都度修正をする傾向が最近多いので、そういう運用なのかもしれません」
アンジェ:「宇宙で動作させるソフトウェアは厳密に試験するだろ? 問題があれば即死亡になる可能性が高い。危険だろ?」
兎:「ここのローバーの制御とかは問題ないのですか? リザバーなんたらとかここで入れたような気がしますけど…」
アンジェ:「仮想空間で試験を十分しているので問題ない」
河野:「デジタルツインですよ」
兎:「デジタルツイン?」
河野:「現実世界の対象物やシステムの情報をデジタルデータとして仮想空間に再現し、現実世界とほぼ同じような状態を再現して試験します」
兎:「だから、問題が起きないのですね」
アンジェ:「いや、現時点でも不具合は存在するし、対処できない状況もあると思われる」
兎:「じゃ、中国も我々も変わらないじゃないですか?」
河野:「すべてが停止してしまうというという確率は低いです。未知の状況か否かを判断して、未知の場合は回避するようにしていますし、その状況もデジタルツインで再度試験するようにしていますから…」
兎:「問題のたびに賢くなっているということですね」
河野:「そうですね」
兎:「中国の火星ベースのローバーも未知の状況に遭遇したのでしょうか?」
河野:「それほど変わった状況が起きていないので未知の状況ではないと思います」
兎:「では、どうしてですか?」
河野:「そうですね… メモリリークかスタックオーバーフローですかね」
兎:「そのメモリリークやスタックオーバーフローというのはどういうものですか?」
河野:「メモリリークは部屋を使って片付けを忘れる人がいたら部屋が汚れて作業ができないですよね? そんな感じです」
兎:「片付ければいいじゃないですか?」
河野:「ガーベージコレクションできない状況なんです」
兎:「ガーベージコレクション? ゴミの収集品?」
河野:「不要メモリの自動回収のことです」
アンジェ:「話が進まないぞ! 後にしろ」
兎:「はい…」
アンジェ:「メモリリークやスタックオーバーフローならリブートすれば、とりあえず動くな。リブートしたのか…」
兎:「リブートって再起動のことですか? じゃ、なぜ今までリブートしなかったのですか? 地球と交信しているなら、地球からリブートできたのでは?」
河野:「リセットのコードを受け付けないぐらい悪い状態だったのでは? 割り込みもできない状態だったのではないかと」
兎:「じゃ、どうやってリブートしたのですか? 誰かがリブートした? もしかして、気球型ローバーがリブートさせた?」
千秋:「気球型ローバー? カインが再起動させたというのか? 気球型ローバーが到着してから日数がかなり経っているぞ」
兎:「そうかなぁと思っただけです」
河野さんが、少し考えて「リセットしてもある程度電力が貯まるまで起動が待機されていたとか?」とボソッと言った。
アンジェ:「可能性はあるな。でも、なぜリブートする必要があった?」
河野:「さぁ」
千秋:「…ロキに依頼しているカインの調査ではっきりするかもしれないが、現時点では手詰まりだな」




