ワイングラス
兎:「河野さん、ワイングラスの方は問題ないでしょ。一緒に行きましょう」
河野:「はい」
兎:「で、どこから入るのですか?」
河野:「下側は水が漏れないように覆われているので、上からでしょうね」
兎:「じゃ、下側の水はワイングラスが回転すると、側面が水で覆われるのですか?」
河野:「すべてではないですが、側面は水となります」
兎:「上にはどうやって上がるのですか?」
河野:「上がる方法は記載されていませんでした」
兎:「コンセプトにしてもいい加減ねぇ。琥珀、ワイングラスの上に転送して」
琥珀:「わかりました」
私たちはワイングラスの縁の位置に転送された。
兎:「高い…」
河野:「そうですね。スカイタワーほどの高さがありますから」
兎:「ちょっと怖いです。河野さんは高いところは問題ないのですね」
河野:「風もないし、スカイタワーみたいに周りに比較対象物がないので、実感がないだけかもしれません。では、回しますね」
兎:「はい」
ワイングラスが音もなく、ゆっくり回り始めた。
兎:「揺れもないし、静かですね」
河野:「揺れなんて面倒な計算していませんから」
兎:「揺れは面倒な計算なんですね。立っていることが辛くなってきたわ。内側に移動しましょう」
河野:「そうですね」
兎:「ワイングラスと思っていたら、真ん中に支柱があるし、側面から支柱に棒が伸びていますね」
河野:「構造体の役割と人の移動用に使えそうですけど、具体的な記載はなかったです」
兎:「暗くてワイングラスの底の方は見えないですね。琥珀、明るくして」
琥珀が明るくしてくれたので、ワイングラスの底の方まで見えた。ワイングラスの底の方は水で満たされているし、側面も水がかなりある。その水がキラキラひかるため、美しい。
兎:「綺麗ですね」
河野:「はい」
兎:「この水にお魚を入れたら、素敵ですよね」
河野:「はぁ。今度は水族館ですか?」
兎:「水族館か。いいですね。作りましょう」
河野:「はっ、しまった…」
「あ! あそこじゃない?」と上の方から声が聞こえてきた。なにやら言っている。
すると、ドン!と音がした方を見ると、颯人が「痛い!」と言った。
すると、上の方から「颯人、大丈夫か〜」と聞こえてきた。
颯人:「大丈夫だ。来いよ」
ドン!、ギャ!、ドン、ドン、うっ! 子供達が落ちてきては痛がる。
伊織:「颯人、何が大丈夫よ。痛いじゃない!」
颯人:「ふふ。死なないよ」
伊織:「当たり前よ。落下で死ぬわけないじゃん! でも、痛いのよ」
小織:「颯人、ひどいよ。痛いって教えてよ」
颯人:「ごめんごめん。でも速くこれただろ?」
小織:「…」
伊織:「小織、見て青くてキラキラして綺麗よ」
小織:「あ、ほんとだ。綺麗。あれって水?」
伊織:「そうじゃないかな。あ、兎先生。あれって水ですか?」
伊織が、私を見つけて言った。
兎:「そうよ。あんな降り方をしたら危ないわよ」
伊織:「はい。ごめんなさい。兎先生はどうやって降りたのですか?」
兎:「私と河野さんはワイングラスの縁から歩いて入ったわ」
伊織:「え! アルジャーノンは回転しているから、縁には移動できないと言ったわ」
兎:「最初は止まっていたから移動できたの」
伊織:「じゃ、動いているときはどうやればいいのですか?」
兎:「さぁ。方法は記載されていないらしいの」
伊織:「ちょっと杜撰ね」
設計者も飛び降りてくる人には言われたくないと思うけどね…




