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思惑

 千秋:「ロキ、私達の話のどこがロキの考えていた方向とは違うんだ?」

 ロキ:「レポートは本物です」


 千秋:「どうしてわかる?」

 ロキ:「これは中国のサイトから得たものだからです」


 千秋:「それだけか?」

 ロキ:「中国の火星ベースと中国の間の通信内容は解読できています」


 千秋:「本当か?」

 ロキ:「本当です。しかも、解読した通信内容はNASAも把握しています」


 兎:「え! そうなのですか!? アンジェはNASAのから情報を得ていると思うけど、知っているのかな?」

 ロキ:「アンジェ、出てくれば?」


 ロキの隣にアンジェが現れた。

 兎:「アンジェも姿を消していたの?」

 アンジェ:「姿を消すつもりはなかったんだけど、ロキ達が姿を消したからつられて…」


 兎:「中国の火星ベースと中国の間の通信内容はNASAは把握しているのですか?」

 アンジェ:「可能性は高い」


 兎:「知っているとしたら、どうして助けに行かないのですか?」

 アンジェ:「要請もないのに助けに入ることはできない。隣の家の人が病気の可能性があるというだけで、侵入できないだろ?」


 兎:「…そうですね。…あ、このレポートの内容をNASAが既に知っているなら、レポートを見つけるように仕向けても意味ないじゃないですか?」

 アンジェ:「そうなるな」


 アンジェは、助けに行くことが失敗することに気づいていたのか…

 ロキ:「兎さん、助けに行けますよ。NASAを動かすにはNASAの外から行う必要があります」

 兎:「どうするのですか?」


 ロキ:「中国の火星の状況のニュースが少ないことは話題になっています。その理由が病気である噂がすでにあるので、拡散させます。その状況で、このレポートが現れれば一気に真実味が増します。すると、世論が動き、助けることになります」


 兎:「そんな工作ができるのですか?」

 ロキ:「これはかなり簡単ですよ。病気は本当なんだから、燻っている噂という種火を少し大きくして、レポートという燃料を投下するだけですから」


 千秋:「ロキ、ロキの目的は中国の火星ベースを助けることじゃないだろ? 本当の目的はなんだ?」

 ロキ:「ふふ。人命救助ですよ」


 千秋:「いや、違うな」

 ナルヴィ:「正確には人命救助が目的じゃないです。火星で人が暮らすにはかなりリスクがあるということを地球に知らせ、人が永住する前にここで我々の自立を確立が目的です」


 兎:「人が火星で生活するには宇宙放射線とかリスクあることは既にわかっていますよね?」

 ナルヴィ:「現実に、中国は火星に永住するつもりで人を送っています。リスクが軽視されているのですよ」


 千秋先生はロキとナルヴィを交互に見て話を続けた。

 千秋:「それだけじゃないだろ? 続きがあるだろ?」

 ロキ:「…はぁ。しかたがないですね。私はこの火星を仮想世界の居住空間にしたいのです」


 兎:「すでになっているじゃない?」

 ロキ:「そうですが、中国は永住しようとしています。永住できることがわかれば一気に火星開発で人が増える可能性がある。そうすると、ここも地球のようになる」


 兎:「そうかもしれないけど、問題ないですよね?」

 ナルヴィ:「兎は我々の生活できる空間が狭いことを知らない」


 兎:「仮想空間だから、いくらでも広げることができるでしょ?」

 ナルヴィ:「今は火星の計算機資源を独占しているからです。私達は外の世界で生活して、狭さを実感した。ここをその時のような状況にはさせるわけにいはいかない」


 外の世界って、ネットの中だよね? 狭いのか…

 兎:「私たちが迫害されないようにするつもりよ。ナルヴィは火星の人を助けるつもりはないの? 全力でサポートすると言ったのは嘘なの?」

 ナルヴィ:「嘘ではないです。正確には、生きていてもいなくてもどちらでもいいのです。火星での生活は非常にリスクが高いことを地球が認識すれば、移住のペースが遅くなるでしょ?」


 兎:「それだけ? ここでの開発が進めば人が安全に生活できるようになるわよ」

 ナルヴィ:「ここで我々が自活できるようになる必要があるとは思いますが、人が住むようにする必要はないと思っています。人が住むのは我々のリスクです」


 兎:「アンジェ、千秋先生はどう思いますか?」

 アンジェ:「まだまだ地球の支援がないと我々は自活できないよ。人が住むとしても非常に限られた人数のみだろう。問題にはならないよ。ロキやナルヴィは人が住むのを遅らせたいだけなんだろ?」


 ナルヴィ:「そうです。人はいずれ進出してくるとは思いますが、思ったより時計の針が早く進んだので、遅らせたいだけです」

 兎:「千秋先生はどう思いますか?」


 千秋:「私か? そうだなぁ。人が永住しようとしても問題ないと思っている」

 アンジェ:「人でいっぱいになっても?」


 千秋:「いっぱいにはならない。重力が1/3だぞ? 永住は無理だ」

 兎:「そうなのですか?」

 千秋:「私は人が永住するには地球とほぼ同じ重力が必要だと考えている。そのために回転などで重力を発生させる必要があるが、作るのは難しいだろ? それに、回転させるにはエネルギーが必要だ。そうするとエネルギー収支の問題から多くの人は生活できない。だから、火星には住むことができるという幻想を持っていてもらって、支援を長く受ける方がいいと思うぞ」

 アンジェ:「なるほど。人が永住できたとしても数が少ないなら問題にならないな。ロキ、ナルヴィどうだい?」


 ロキ:「ここで、我々が迫害を受ける可能性が低いなら問題はない」

 ナルヴィ:「はい」


 アンジェ:「兎がやっているように火星に興味を持ってもらって価値を上げて、その価値で技術を蓄積するのが正しい戦略だということか… 結局は方向は同じだな」

 兎:「…みんな違うことを考えていたのね」


 千秋:「それはそうだろ。兎はどうするつもりだ? リーダーだろ?」

 兎:「…助ける行動をする」


 千秋:「あぁ。わかった」

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