メタバース
私と千秋先生は部屋を後にして、千秋部屋に戻った。
「達也君への質問でなにかわかったことはあるか?」
「…収穫はなかったですが…」
「そうか。達也君は悪い人ではないようだが、近づかないように。そして、達也君が言っていたように、大学で詩織を調べている奴もいるし、ここを調べている奴もいるので、注意は怠らないように」
「わかりました」
話が一区切りついたので、ニャン吉で癒しタイムだ!
「ニャン吉に会ってもいいですか?」
「ああ。いいぞ」
「ニャン吉。おいでー」
ニャン吉が詩織の元に来た。ニャン吉かわいい!
「千秋先生、ニャン吉は呼んだら来るじゃないですか?」
「ニャン吉は呼ばなくても部屋に人が入ると、いつでも来るぞ。猫じゃなく犬じゃないか?と思えるぐらいだ」
確かに、お迎えするって、ニャンコなのに犬っぽいね。そこもかわいい。
犬? 犬も猫も大脳の細胞ってそうかわらないよね? ということは、犬も大脳のシミュレートできるだろうけど、人間はどうなんだろう?
「千秋先生、人間の大脳のシミュレートを量子コンピュータでできますか?」
「人間の大脳の細胞は140億だけど、技術的にはできる」
「作ってみたいと思わないのですか?」
千秋先生はこめかみを指でたたきながら何か考えているようだ。
「…作ってみたいが、体をどうする? そんな人体実験は倫理的に無理だ」
「体はメタバースみないなバーチャルでいいんじゃないですか? それなら、倫理的にも問題ないですよね?」
「それなら倫理的には問題ない… ような気がする…」
まだ、千秋先生はこめかみを指でたたいている。これって千秋先生の考え中のくせ?
「何か問題があるんですか?」
「倫理の問題は別として、一番の問題はお金だな。140億のシミュレートするには2億円以上はかかるだろうなぁ」
「高い!」
「高くないぞ。ニャン吉は10億円ほどかかっている」
「あれ、ニャン吉は2億5千万の脳細胞のシミュレートですよね? ニャン吉の方が高いのはどうしてですか?」
「初期生産で試行錯誤があったからな。数年後には数千万円でできると思うよ」
「数年で急に値段が下がるんですか?」
「生産量が増えれば、もっと安くなるからな」
「じゃ、作らないと安くならないなら、作っちゃいましょうよ」
「…詩織は多臓器不全の患者の脳を脳死の患者に移植する話のとき、脳が重要という意見じゃなかったのか? それなのに脳を作るって… 詩織の倫理観は…」
「脳死の人に移植するわけじゃないでしょ? それに、ニューラルコンピュータも人間の脳神経を模倣しているんでしょ? だったら量子コンピュータを使っているというだけで一緒でしょ? なら倫理なんて問題にならないじゃないですか?」
「ニューラルコンピュータは… ま、いい」
千秋先生は「…人かもしれないぞ…」と呟いた。
「明人君、聞いていただろう? どう思う?」
「メタバース上のアバターにつないで実験するのはどうですか? メタバースでは、触覚、味覚、嗅覚がないので、運動野をかなり省いても問題なさそうじゃないですか? そうすると、かなり細胞数は減らせれるので、安くできませんか?」
「体はメターバース上で実現か… 細胞を減らした設計は不要で、人と同じ構造でいいんじゃないか? メタバースでは触覚、味覚がないから入力もない。だから、脳細胞のシミュレートも不要だ。脳細胞の接続設定データがあるだけだ」
「!? さすが、千秋さん! 人の脳構造の接続モデルはすでにあるので、できますね。メタバースとの接続部分の実装は作る必要がありますが…」
は? 何の話?「よくわからなかったのですが…」
千秋先生は私を無視して話を続けた。
「作ったメタバース上の人間は赤ちゃんと同じだけど、どうやって教育するかだな」
「あ、そうですね。ニャン吉にはルナがいて、ルナが育ててくれたから問題なかったですが、親が必要なんですね… メタバース上にアクセスして教えるしかないですね」
「とりあえず、作ってみるか」
「千秋さん、お金の問題はどうするんですか?」
「うーん。なんとかなるだろう」と千秋先生は私を見て言った。
「え? 私? そんなお金持っていませんよ」
「詩織に出してもらう必要はない。気にするな」
「はぁ。そうですか…」




