火星ベースの状況予測
みんなが出て行くが、私は千秋先生を呼び止めた。
兎:「千秋先生、中国ベースの病気って火星にある病原菌に感染でしょうか?」
千秋:「火星の病原菌? 可能性はほぼない」
兎:「じゃ、火星ベースの病気ってなんですか?」
千秋:「ありふれたウイルスか微生物だと思う」
兎:「ありふれたウイルスか微生物って、地球にいるものってことですか?」
千秋:「そうだ」
兎:「コロナウイルスのように?」
千秋:「そうかもしれないし、違うかもしれない」
兎:「でも、特効薬とかで治るのでは?」
千秋:「勘違いしているかもしれないが、インフルエンザの特効薬と言われるものでも症状が現れてからの12時間から48時間に飲んだ場合に症状が緩和される可能性があるだけだ。必ず治るものではない」
兎:「そうなのですね… 宇宙に人を送る場合、薬とか持参しないのですか?」
千秋:「持参するだろうが、すべての薬品を持ち込むことはできないだろ?」
兎:「そうですね。でも、どうして宇宙でウイルスに感染するのですか? 他に人はいないですよね?」
千秋:「自分の体にいるものが悪さをする場合がある。例えば、腸内にはたくさんの善玉菌や悪玉菌がいてバランスをとっているが、体調が悪くなると悪玉菌が勢力を得ることで病気になる場合がある」
兎:「腸内のバランスが崩れたということですか?」
千秋:「腸内が原因とは限らない。空気中のウイルスかもしれない」
兎:「うーん。ありふれた病原菌なら、普通に生活していれば問題ないのですよね?」
千秋:「長期間の火星での生活は普通ではないから、バランスが崩れるている可能性はある」
兎:「火星での生活はどう普通ではないのですか?」
千秋:「まず重力だな。地球の1/3しかないから運動が難しい。そうすると、筋力が落ちる」
兎:「ISSって1年以上の知見があるから大丈夫じゃないですか?」
千秋:「よく知っているな。438日の記録がある」
兎:「じゃ、どうすれば問題ないかもわかっているのですよね?」
千秋:「筋肉や骨量の減少、体液の偏り、宇宙放射線による被ばくは想像がつくが、他にはわからない。それに精神への影響もある。体力が落ち、精神が弱っていると、通常なら問題がないウイルスにも感染しやすくなり、ありふれたウイルスでも重症化する可能性もある」
兎:「なるほど。私たちは問題ないのですか?」
千秋:「兎達をみていると問題なさそうだな。我々には重力は関係ないし、精神も落ち着いているようだ」
兎:「人は病気になりやすいことはわかりました。…もっと詳細に症状がわかれば、対処方法もあると思いますけどレポートには書いていないですね」
千秋:「実はレポートはもう一つある。さっきロキにもらった」
兎:「え? そうなのですか? 見せてください」
千秋:「うーん。見ない方がいい。かなりグロテスクな写真がある。見るか?」
病気の写真がグロテスク? でも、千秋先生がグロテスクというからにはかなりだろう。
兎:「…遠慮します」
千秋:「それがいい」
兎:「そのレポートから何かわかりますか?」
千秋:「肺炎、高熱、下痢、筋肉痛、皮膚炎の症状があるな」
兎:「インフルエンザでしょうか?」
千秋:「そうかもしれないが、皮膚炎というのがよくわからない」
千秋先生が、私をじっと見る。
兎:「どうしたのですか?」
千秋:「ロキが渡してきたレポートの内容をみれば、現時点では生き残っている人も重症化して手遅れの可能性が高い。助けに行く時間を考えれば、その時点で死亡している可能性の方が高い。ロキはそれを知っているような気がする」
兎:「ロキは手遅れとわかっていても助けに行きたいと考えているということね。 …うーん。ロキはかなり合理的な気がしていたけど、ロキのイメージを修正しなきゃ」
千秋:「ロキの目的は救助ではなく、別の目的があるのではないかと私は疑っている。もしかすると、このレポートも偽物の可能性がある」
兎:「え! 偽物?」
突然、ロキとシギュンとナルヴィが現れた。
兎:「!?どうしたのロキ?」
ロキ:「私の考えていた方向とは別の方向に行きそうだったから、出てきました」
千秋:「私たちの会話を聞いていたのか? 出て行ったのではないのか?」
ロキ:「姿を消していただけです」
兎:「え! そんなことできるのですか!? 温泉とか覗いていないでしょうね!」
ロキ:「そんな無駄なことはしない」
兎:「無駄って…」




