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ビアンカの趣味

 グルグル回して飛ばす機械はスピンローンチという名前らしい。スピンローンチとはナルヴィが制作し、スーパーキャパシタはシギュンが制作する。

 材料はロキが集める。


 ロキは北の山で掘削を行う。掘削は悠人が作っているロボットだ。ローバーのようにリザバーコンピューティングを動かすコンピュータはチップが希少なので、有線で操作する。


 銅の採掘も進んだので電線もある程度の長さならできる。だから電源も有線だ。バッテリを持って移動する必要はないので軽い。しかも、石などの崩落があっても火星で製造できるものばかりなので修理ができる。

 だが、最初は耐久性に問題があり、故障が頻発した。


 同期リラクタンスモーターに火星の砂が入り性能が低下したり、ポリカーボネートでは強度が足りずに折れたりした。

 その都度、シリコンを利用したり、構造を変更したりと改造を繰り返している。


 その改造のおかげで修理のしやすい掘削機械になった。この工夫でスピンローンチ用の高回転に耐えるモーターとなった。

 問題はスーパーキャパシタだ。アルミニウムが見つからない。


「ビアンカ、アルミニウムは微量しか見つからないわよ。これじゃスーパーキャパシタが作れないわよ」

「そうだな… 仕方がないので鉄アザフタロシアニンを作るか」


「シアニン? アントシアン?」

「ほう。シアニンからアントシアンを想像するのか? アントシアンも青い。確か何かの花の青い色素だっかな?」


「火星にそんな花はないですよ」

「あぁ。ない。鉄アザフタロシアニンはC28H12N12Feだ。この元素はここでも手に入る。それに活性炭を混ぜて作る」


「作るって簡単に言いますよね?」

「簡単じゃないが、作るしかない。尿素法がいいかもな」


「ビアンカって化学に詳しいよね? 専攻は化学なの?」

「そうだなぁ。化学はマイナーだな。メジャーは医者だ」


「化学はマイナー? メジャーが医者?」

「そうだ、人体に与える化学薬品の影響から化学には興味があった」


「もしかして、メジャーって専攻のこと? じゃ、マイナーは?」

「もしかして、言語の意味を聞いているのか? メジャーは専攻。マイナーは次の専攻? 第二専攻?だ」

「なるほど… マイナーと言われると、人気がないのかと思っちゃう…」


「マイナーには重要ではないという意味があるな」

「あのう。ビアンカ、質問していい?」


「なんだ? さっきから質問しているだろ?」

「そうだけど… ビアンカは何言語で喋っているのですか?」


「英語だ」

「じゃ、これってリアルタイム翻訳?」


「そうだ。私は日本語を喋れないから、君たちと話すのに不便だろ?」

「そうですね。英語とドイツ語は日常会話ぐらいしかできませんから」


「ドイツ語ができるのか? じゃ、私とドイツ語で話すことにするか?」

「Bitte verwenden Sie eine Übersetzung.」


「そうだな。その発音だとこちらの方が良さそうだ。翻訳を利用するよ。話は変わるが、地球に送ったアスベルとラステルはどうなったか知っているか?」

「アスベルとラステルは地球の仮想環境で変更を加えているそうです」


「その情報もフィードバックしてもらうことにしろ」

「わかりました」


「アスベルとラステルに人工脳モデルを教育させたいと思っているが、兎はどう思う?」

「みゆきや真織は作りたくないです…」


「みゆき?真織?なんだそれは」

「みゆきは人工脳モデルをNPCが育てたのです。私と神木さんも手伝いましたが… 真織は私の2日目のデータの人工脳モデルを育てました」


「ほう。そんな記録はなかったぞ」

「そうなんですね。千秋先生はすべてを公開していないと思います」


「そうだろうな。私でもそうです。で、その二人はどうなったんだ?」

「最初は喋ることもできるぐらいには育ったのですけど、しばらくするとすべてのことに興味を失ったので停止しました」


「そうか… 子供達はうまく育っているじゃないか?」

「確か3日目のデータだし、子供達は森で遊べるように環境も整ってきていたし、前と違うからかなぁ」


「なるほどな。もう少し調べてみる…」

「そんな時間はあるのですか?」


「大丈夫だ。これは趣味だ」

 はぁ。そうですか…

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