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オペレーションズ・リサーチ

 ビアンカは子供達を集めた

「これから、火星を開発するが、現時点で気になっていることを教えてくれ」


 颯人:「ローバーを動作させるにはアルジャーノンの能力が必要だけど、ローバーの組み立てが進めばデータセンタの処理が足りなくなる可能性が高いです」

 颯人の意見を画面に表示し、今後の意見もリストに入れろと言った。


 悠人:「ローバーは故障で2つの関節を交換しています。原因は砂です。メンテナンスを拡充しないとローバー不足になります」

 ビアンカ:「なるほど、他には」


 小織:「現在、モジュール内でポリカーボネートを生産していますが、生産効率を上げるためには工場の建築が必要です」

 伊織:「ローバーのメンテンスも場所が必要よね。ローバーだと砂はある程度除去できればメンテナンスができるけど、ポリカーボネートの生産は砂が侵入できない環境にする必要があるわよ。フィルタとかも必要よ」


 理人:「ポリカーボネートはローバーの修理にも利用できるし、副産物の水も利用できる。生成物の保管も必要だから、これからは製造の順番や管理が必要だと思います」

 ビアンカ:「ほう、他には? 神木君もあるか?」


 神木:「そうですね。これから北側の山の探索を始めると電力不足になる可能性があります。太陽光パネルの埃を取るなど、太陽光パネルの効率化が必要になると思います」

 ビアンカ:「太陽光パネルの埃払いも自動化する必要があるな。鏡で集光も有用かもしれないな」


 兎:「地球では鏡なんて利用していませんよね? どうしてですか?」

 ビアンカ:「地上では熱が上がりすぎるが、火星は温度が低いから効率が落ちない可能性が高い。で、兎はなにか意見があるか?」


 兎:「うーん。そうねぇ。地球への定期連絡だけどビアンカがしてくれる?」

 ビアンカ:「面倒だっと言いたいところだが、しかたがないな。それぞれみんなわかっているようだから、それぞれ動け。私はローバーの効率化を行う」


 兎:「え? 私は?」

 ビアンカ:「全員の調整をしろ」


 兎:「それって神木さんの方が向いているじゃないですか?」

 ビアンカ:「神木君は技術的なまとめとして必要だ。兎は経済学部なんだろ? だったら、ORを習っただろ? 実践してみろ」


 兎:「OR?」

 ビアンカ:「オペレーションズ・リサーチだ。経済学部で習わないのか?」


 兎:「うーん。経営学であったような気がします。最初は軍の物資の配置とかでしたよね?」

 ビアンカ:「そうだ。火星の運営の最適化と思ってやれ」


 兎:「わかりました…」

 ビアンカは「じゃ、私は部屋に籠る」と言うと、消えた。


 伊織:「じゃ、兎先生、工場の建設をしていい?」

 兎:「えーっと。先にモジュールを囲うの先ね。有線はデータセンタのモジュールね」

 伊織:「わかったわ」


 兎:「小織と理人は伊織の作業に必要な資材の調整をして。神木さんは颯人と悠人でローバの組み立てとメンテナンスをお願いします。いいですか?」

「「わかりました」」とみんなが答えると、消えた。


 はぁ。オペレーションズ・リサーチって覚えていないわ。調べなきゃ…



 私はそれぞれが作業を行なったため、場所の不足や電力不足を優先度の順番で対応に2日間、追われ続けた。みんなが作業を行なったため、ローバーの酷使も激しく、ローバーの修理で交換部品などの資材が減っていく… 一番最初に枯渇するのはローバーの部品だ。シミュレーションすると、6ヶ月後には30%の生産効率が下がる。1年後には90%の生産性が下がる。


 私は全員の食事の際に行う、情報共有でこの話をした。

 兎:「ローバーの部品の損耗が激しいわ。このままだと、6ヶ月後には30%の生産効率が下がる。1年後には90%の生産性が下がることになるわ」

 神木:「その想定に、北の山の探索の想定は含んでいますか?」


 兎:「いいえ、含んでいません。探索すると損耗も激しいでしょうから、もっと生産性が下がるでしょうね」

 ビアンカ:「ローバーにリザバーコンピューティングを組み込もうと思うが、意見が聞きたい」


 ビアンカはシミュレーション結果を画面に出した。

 ビアンカ:「リザバーコンピューティングを入れると、自律で動作ができる。そして、自分が生き残ることをルールに組み込んでシミュレーションを行なった。すると、最高出力は10%低下する。最高速度は15%低下する。精度は5%低下する。しかし、損耗率は80%低下し、稼働率は210%向上する。ローバーは部品が故障しかかっている場合は、出力を抑えたり一部停止して作業を続ける。すなわち、人が痛い部分を庇って動作するに近い」


 伊織:「稼働率は上がっているけど、出力や速度が落ちて生産性が落ちていない?」

 悠人:「最高出力なんて作業ではほぼ使わないだろ? それほど生産性が落ちないと思うよ」


 颯人:「それより、『部品が故障しかかっている場合は、出力を抑えて作業を続ける』というところが気になるよ。建築では複数のローバーが協調して動作するよね? そのときに出力が揃わないってこと? 協調できないよね? 出力が最も低いローバーに合わせることになるね…」


 伊織:「現実って面倒ね。仮想世界で出力なんて関係ないもの…」

 颯人:「ほんとにそうだよな。ローバーの部品が故障すると制御の計算が面倒なんだよ」

 理人:「リザバーコンピューティングだと、自律動作ができるんだろ? だったら制御は簡単になるだろ?」


 颯人:「一台で動作するときは面倒が少ないだろうけど、複数台が協調して作業するときは面倒じゃないか?」

 理人:「そうかもしれないけど、協調は別プログラムを用意すればなんとかなるだろ? ローバーが修理したり、使えなくなる方が問題だよ」


 一通り、意見がでたのを見計らってビアンカが「兎、どうするか判断しろ」と言った。

 私が判断するのか…


 兎:「ローバーがなくなれば、作業ができなくなるわ。今はローバーの損耗率の低下が最重要よ。建築での協調で出力が違うことは、人が作業した場合にも起こることだから調整するしかないわ。リザバーコンピューティングを導入しましょう」

 これは、オペレーションズ・リサーチみたいな高尚なものじゃいわ。ただの調整ね…

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